困惑の一方、明るい兆しも チベットの中国化と厳しい制限〈すぐそこにある未知〉石川直樹=思索のノート
今ぼくは、チョオユー(標高8201メートル)という山のベースキャンプにいる。ネパールから無事に国境を越え、中国、というかチベットに入ることができたのである。国境を越えるまでにカトマンズで10日間ほど待ち続け、中国のビザ発給までに紆余(うよ)曲折があった末の国境越えだったので、ことのほかうれしい。
昨日は標高4200メートルにあるニューティンリーという街のホテルに宿泊した。部屋がタバコ臭い以外は至極まっとうなホテルで、きちんとお湯のシャワーが出たし、ホットカーペットがベッドに仕込まれていて、暖かすぎるくらいだった。昼間は、窓からヒマラヤの山々が見え、中秋の名月の1日前だったので夜は満月に近い月が美しく、気持ちが高ぶった。翌朝9時にホテルをたち、車でチョオユーのベースキャンプへ向かった。昨今のチベットは中国政府の方針で開発が進み、多くの道路が整備された。ぼくが2001年にチベット側から世界最高峰エベレストに登ったときは、ティンリーからひどい道路を車で進んだものだが、今はエベレストとチョオユーのベースキャンプまではつるつるの舗装道路が開通し…