諏訪人燃えて(4)=おんべ作リ…夫婦息合わせ 打ち振る姿誇り



御柱祭用のおんべ作りを本格化させた広瀬勝也さん。来年春の本番までに1万本を作るという

 「スーッ、スーッ」。茅野市仲町の広瀬勝也さん(64)が自営する木工所。トウヒの白木をかんなで削る音が作業場に響く。木遣(や)り衆も愛用するおんべを作ることで知られる広瀬さん。六月に諏訪大社下社のお舟祭り用に三百四十本余を作り終え、先月からはいつもより早めに来年の御柱祭の準備に取りかかった。

 七月のある日、広瀬さんは黒光りした台に湿らせた白木を載せた。かんなを一気に滑らせると、白木は薄く細長い帯のようになって次々と削り出された。厚さは百分の五ミリ前後。向こうが透けて見えそうだ。

 それを一枚ずつ手に取る妻のみずゑさん(64)との息もぴったり。みずゑさんが手の中で束ねるにつれ、次第におんべの形になっていった。

 御柱祭で氏子たちは、御柱にまたがり、あるいは柱の先端に付けたメドデコにつかまりながら、おんべを打ち振る。おんべは、御柱祭の活気と華やかさを彩るのに欠かせない道具だ。

 木遣り衆が持つおんべの長さは平均一・三五メートル、長いと二メートルもある。氏子のおんべは子供用が長さ三十五センチ、大人用は四十五センチか五十五センチ。材料の白木はトウヒやエゾマツが多い。木遣り衆のおんべ一本に使う薄く削った白木は、二百三十枚前後にもなる。

 諏訪地方でおんべを作る代表的な業者は数軒のみ。このうち広瀬さんは、来年の御柱祭に向けて大小合わせて一万本のおんべを作る予定だ。

 品質が高いとされる広瀬さんのおんべは、下諏訪町木遣保存会の会員をはじめ多くの氏子が使う。諏訪市木遣保存会の小池共平会長(63)=同市湖南田辺=も「房がたくさん付いているのに軽くて使いやすい」と、約三十年間愛用している。

 広瀬さんは「七年分を一年で稼ぐと友人はからかうけれど、実際はそんなにうまくいかないよ」と話す。長さ一メートルを超す大きなおんべは、夜までかかっても一日五本が限度。体や道具の調子が悪ければ、もっと少ない。削る木と道具の相性もあるという。

 二十歳で家業の建具屋を継いだ広瀬さんは、来年の御柱祭が八回目。「おんべ作りは誰にも負けない」と、気概は薄らいでいないが、祭りのたびに体は六年ずつ年を取る。来年に向けた作業を早めに本格化させたのも、体に負担をかけずに注文をこなすためだ。

 広瀬さん自身、御柱祭で上社の氏子として御柱を曳(ひ)く。それだけに「メドデコに乗った氏子たちが、自分の作ったおんべを打ち振る姿を見るのが、職人として一番の幸せ」としみじみ語る。「たとえ一本でもいい。自分にとって十回目の御柱祭までおんべを作り続けたいね」。広瀬さんはそう言って笑った。

(2003年8月23日 信濃毎日新聞掲載)