TOP2014年10月気象庁、後手に回った警戒対応 「過去データ」想定超え噴火

 御嶽山噴火は、気象庁が異変に気付きながらも危険度を5段階で示す噴火警戒レベルをレベル1(平常)に据え置き、火口周辺への立ち入り規制を伴うレベル2への引き上げを見送っていた中で発生した。その経緯からは、最近2回の噴火パターンとの比較にとらわれ、想定を超えた火山活動に対応しきれなかった実情が浮かび上がる。気象庁は10日、水蒸気爆発をより早期に把握する手法なども開発していく方針を示したが、現状では予測困難で課題は多い。

 東京・大手町の気象庁火山課が御嶽山の異変に気付き、対応を検討し始めたのは9月10日。火山性地震が前日の10回から52回に急増し、その後も増え続けていた。11日午前には「火山の状況に関する解説情報」を出し、関係自治体(長野、岐阜両県と木曽郡木曽町、王滝村、岐阜県高山市、下呂市)に連絡した。

 同課は並行してレベル2への引き上げについて検討した。その際に参考にしたのが「過去の噴火データ」だった。御嶽山は1979(昭和54)年に有史以降初の噴火をしてから、1991年と2007年にごく小規模な噴火を起こした。観測機器が設置されていなかった79年のデータはない。必然的に91年と07年の経験が基になった。

 同課の菅野智之・火山活動評価解析官は「地震だけでなく、利用できるデータを幅広く検討した」とする。

 熱水やマグマなど地下の流体の動きで起きるとされる連続的な振動「火山性微動」がその一つ。91年は噴火の半月ほど前から、07年は数カ月前から断続的に火山性微動が発生した。噴火の前兆現象として起きるとの指摘もあり重視していたが、今回はみられなかった。

     ◇

 同課がもう一つ重視したのがGPS(衛星利用測位システム)による地殻変動の観測。07年には噴火前に地下のマグマ上昇を示す山体の膨張がみられたが、これも今回は変化しなかった。

 唯一把握できた異変は火山性地震の回数。しかし、これも過去2回と比べると少なかった。07年には噴火の約2カ月前に1日に最大164回を記録、91年も137回を数えた日があったのに対し、今回は9月11日に85回に増えて以降は、多い日に20回台と小康状態で推移した。

 気象庁は、解説情報を出したことを御嶽山の観測を続けている名古屋大大学院地震火山研究センター(名古屋市)の山岡耕春(こうしゅん)教授(火山学)にメールを送って意見を求めた。火山噴火予知連絡会会長の藤井敏嗣・東大名誉教授ら予知連委員にもメールで知らせたが、「レベル2に引き上げるべきだとの意見はなかった」(気象庁)という。

     ◇

 結果的に判断材料がそろわず、レベル引き上げの見送りを続けていた火山課。火山性微動を観測して一気に緊張が走ったのが、噴火11分前の9月27日午前11時41分。山体膨張もその4分後に観測した。これを受け、同課がレベル引き上げを再び検討し始めたころに、噴火は起きた。菅野評価解析官は「今回の噴火は、過去と大きく違う経緯をたどった」と説明。データが少ない中での難しい対応だった点を強調する。

 気象庁は10日、予知連の既存の検討会で全国の活火山の観測体制を洗い直し、水蒸気爆発をより早期に把握する手法の開発も検討すると明らかにした。しかし、気象庁の土井恵治・地震火山部管理課長は10日の取材に「どう体制を充実させればいいのか現時点では分からない」と説明。その上で、「『難しいから仕方ない』で済む問題ではない。水蒸気爆発の前兆をどう捉えることができるか、どのような機材をどの程度投入すべきなのか、多くの方の意見を聞きながら手掛かりを得ていきたい」と話している。

<マニュアル的対応で現場感覚欠く 専門家の声>

 気象庁が噴火警戒レベルを引き上げる前に発生した今回の噴火。岡田弘・北海道大名誉教授(火山学)は気象庁の対応について「前例にとらわれたマニュアル的対応で、現場感覚が欠けている」と批判する。「御嶽山には、火口周辺に多くの登山者が接近するという固有リスクがある。火山活動も同じパターンを踏むとは限らない。異変が起きていた以上、レベルを引き上げるべきだった。登山者に積極的に知らせる努力が必要だった」とする。

 火山性地震の発生について、気象庁からメールで連絡を受けた名古屋大大学院地震火山研究センター(名古屋市)の山岡耕春教授は、低周波地震の発生に注意を払うことや、火山性微動を観測した場合は「水蒸気爆発を考えるべきだ」と指摘したという。

 しかし、「気象庁に強く(レベル引き上げなどを)言うことはなかった。そういう意味で、心残りがある」と振り返る。気象庁の判断について「結果的には『念のため』にレベル2に引き上げるべきだったのだろう」としつつ、「人(登山者)の動きを制限するレベル引き上げの判断は、説明責任を伴う。火山活動が低調になったこともあり、ためらったのだろう」とする。

 気象庁は10日、水蒸気爆発をより早期に把握する手法を研究していく方針を示した。地震計の追加整備など、観測態勢強化の必要性も課題となるが、山岡教授は「さまざまなデータを見て、最終的に(レベル引き上げなどの)判断するのは結局は人間だ」とし、機器の増強にとどまらず、人員態勢も含めた見直しが必要と指摘している。

2014年10月11日掲載