TOP2012年04月東京の蕎麦は不味くなった? 駆け足の食べ歩きから

 3月末、久しぶりに上京する機会があり、いくつかのそば屋を急ぎ足で食べて歩きました。観光地の繁華街の他に、いつもは寄ることもなかった銀座の一流デパートものぞいてみました。

 そこで感じたことがいくつかあります。

 1つは、相当な老舗でも、かなり味が落ちたのかしら、と思ったこと。

 繁華街の老舗のそば屋2軒では、妙に固い蕎麦が出てきました。よく言われる、江戸流の「シャキッとした蕎麦」をつきつめると、こんな方へ来るのでしょうか...。噛んでいて旨さが出てこないのは、材料のせいか技術のせいか。ツユがうまく絡まないのも気になりました。

 あるいは、別の1軒の蕎麦は妙に細く長い。どうやら機械製のようです。東京ですから、古い店ではよく見かけるもので、特に珍しいというわけではありません。それにしても、味気なさがつきまといました。

 銀座のデパートの食堂街のそば屋では、ざるそばにツユの徳利が2本つけてきました。珍しいなあ、とよく見ると、1つは「から汁」、もう1つは「あま汁」と書いてあります。

 有名な江戸流の「辛いツユ」「甘いツユ」がこうやって提供されるのは、ずいぶん前に経験したことはありますが、記憶に残っていません。

 店員が説明してくれたように、「から汁」は割とあっさりした味でした。一方の「あま汁」は、砂糖の甘さではない、と言われましたが、きちんとした甘さがあり、少しもったりした味わいです。昔ながらの「あま汁」は、こんなだったかしら、と改めて味わいました。両方とも、たいへん濃い。食べていると、蕎麦ではなくツユの方を味わってください、と聞こえてきそうな気がしました。

 デパートでは2軒ハシゴしました。上の方の階の食堂街は昼食時で、行き交う客で大にぎわい。それぞれの店はどこも、順番待ちの行列が出来て、椅子に座って待つ人をたくさん見かけました。そんな中で、そば屋だけはなぜか、行列がありません。あらまあ。

 店内に入っても、かなりすいている。たまたまそんな日に当たったのか、そこのデパートだけのことなのかはわかりません。しかし、どことなく、そば屋の人気が相当に落ちている印象を受けました。名前のある、一流と見なされるような店で、こんなに客足が少ないのには、私もびっくりしました。

 味が落ちたから客が減ったのか。客が少なくなったから、苦しまぎれに質をおとしたのか...。

 何年か前から、そばの雑誌、特集の出る機会がぐんと減っていました。それは全国的に一部のそば屋の宣伝上手が目立って、実際に食べてみると、不味い店ばかりになったからかしら、と思ったものです。

 今回食べてみて、割と有名な店だったのに、老舗らしい良さがほとんどありません。また蕎麦の作りに、かなり迷いがあるように感じました。どうしてこんなに固い蕎麦を出すの、と思った店がいくつか。総じて、どことなく押しつけがましい味や出し方をするのが気になりました。

 そして、信州から見ていて、いつもうらやましく思っていた、"ツユ(汁)で食べさせる"味(総合的な)が、あまり尊敬出来ない味になっていてがっかりしました。

 ひどい店では、猪口にツユを少し入れてきて、これで食べて下さい、と出してくれました。つまりは盛り切りです。これで足りるように食べるには、少し慣れないといけないようでした。明らかに、店の流儀に従って食べてください、という仕組みです。よく言われる、箸でつまみ上げた蕎麦の端の、3分の1か5分の1だけ汁に浸してすする(たぐる?)、というもの。実際は、今どきの減塩指向の中では、10分の1だけつければ十分、とも思いました。

 いやいや、本当は、10分の1だけ汁を浸した程度だと、蕎麦の味わいと相まって、妙に物足りなく感じます。ツユだけではない、蕎麦の方の問題もありそうでした。

 最後には、そば湯にはいい湯桶を使って麗々しく出してくれるのですが、ツユがもう無くなってしまった、という場合もありました。あるいは、2杯目はもっと薄くして飲みたいのに不自由だなあ、とも感じました。

 汁は近ごろの傾向でかなり濃い作りです。味はとてもよく出来ているなあ、さすが東京の有名店だ、と思います。それでも、やはりそば屋には蕎麦を食べに来たのであって、ツユを食べに来たのではないのです。ツユを余計に使ってはいけない、と、妙に節約する(ケチな?)感覚が見え隠れしていると思いました。

 もともと東京では、田舎の方と比べると、蕎麦(そば切り)の質、材料へのこだわりは少なかったと思っています。それが、ツユの味の高度化(?)が進んだせいか、まるでバランスを崩してひどい味になったのかしら、と疑ったのですが...。

 こうした、ツユが自分の味を主張する、というのは、今や時代遅れに見えます。特に先進的な店というほどでなくとも、基本は蕎麦の味をツユが引き立てるのが、本来の蕎麦の味わい方のように思うのです。少なくとも信州ではそうありたいと思います。

 首都東京で、蕎麦の味全体が落ちているのでしょうか。

 いや、本当はとても美味しい店があるんだよ、とも聞きます。当然の話です。しかし、少数の特別の美味しい店に、皆が行くわけではありません。たいがいは近所の知っているそば屋へ行くものと思います。そうした一般的な店の味が、かなり落ちてしまったのかなあ、という感想なのです。

 これは全国どこでもある話なのかもしれません。

 我が信州でも同じことが言えるのかどうか。全部が上等とはいかなくても、そこそこに美味しい店ばかりだといいのですが。少なくとも、平均して美味しい店になって欲しいと願うばかりです。

2012年4月 3日掲載

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