TOP2012年07月ヤマゴボウのツナギの蕎麦は 餅作りの文化も含めて再検討を

 たまたま最近、北信の何カ所かで、ヤマゴボウ(オヤマボクチ)の葉の繊維をツナギとする蕎麦をいくつか食べる機会がありました。

 最近は信州でもずいぶん有名になった、ヤマゴボウの葉をツナギにする技法。奥信濃や新潟県の十日町、妙高山麓など雪の深い場所に伝えられてきました。古くはもっと広い範囲で行なわれていたようです。

 秋だったら、飯山市富倉や山ノ内町須賀川で、そば祭りなどの機会に食べることはあります。近年、それ以外のシーズンに、違う場所で食べる機会が増えてきたような気がします。

○最初はまだ雪が多く残っていた奥信濃の少しさびれた町で。小さな店ですが、意気軒昂に蕎麦を出していました。故郷の技法で、ヤマゴボウをツナギとしています。ここで久しぶりに食べて、味は相変わらずなかなかのものでした。客筋が定着しているのでしょう、自信たっぷりの話しぶりが印象に残りました。蕎麦は技術だよ、材料ではないよ、とのことでした。まあ、そういう味に仕上がっていましたが。

○つい最近食べたのは、北信濃の街なかの小さい店です。以前からヤマゴボウを使うのは知っていましたが、地元にだんだん定着してきたのでしょう、ぼつぼつと客が入っています。経営は楽ではなさそうですが、何とか味を落とさないで頑張っていました。ヤマゴボウを使う良さはあるのですが、それを上手にアピールするのは、けっこう難しいのかしら、と思ったものです。

○山ノ内町で真夏の納涼を兼ねた蕎麦振る舞いは、恒例のイベントです。ここでも味はまずまず。ヤマゴボウのツナギは、あまり意識しないような作りになっていました。材料がこんな暑い時期までよくぞ保管してきたなあ、と感心しました。

○長野市郊外の新しい店でも、ヤマゴボウ入りの蕎麦を食べました。打ち方が独特で、従来の技法を超える不思議さがありました。これからどう伸びていくのか楽しみです。

○季節のせいか、どこも少し柔らかめに作ってありました。ヤマゴボウ特有のシャキシャキしたような固い蕎麦ではありません。気温が高くなってきた時期、ということも関係あるのでしょう。それでもどの店も、終わりまで飽きのこないいい味でした。

     ☆

 これとは別に、ヤマゴボウの若葉を入れてついたお餅の話題が、新聞に載っていました。信濃毎日新聞の今年2月1日号には、<新舘村の保存食 小海で。町民と避難村民「凍み餅」作り>というタイトルでの紹介。その内容は、福島県の飯舘村の住民有志が小海町を訪れ、伝統保存食「凍(し)み餅」を作った、というものです。

 「小海町豊里の町農産物加工直売所で、町民有志25人ほどが作業を手伝った。町民から提供されたもち米とうるち米の粉を、飯舘村から持参したオヤマボクチの葉をつなぎにして餅にし、雨どいを使って長さ50センチほどの細長い形に整えた。...」「作った餅は室内で2晩寝かせて切り分け、わらで編んで水を含ませ凍らせた後、50日ほどで自然乾燥させると凍み餅になる。水で戻して焼くなどして食べるという。...」

 こうした記事を見て私は、信州でのオヤマボクチ(ゴボッパ、ゴンボッパ。ヤマゴボウとも呼ぶ)の利用方法とは微妙に違うのかなあ、と思いました。

 1つは、信州にもこうやってヤマゴボウを利用して餅につく、という話はあちこちで聞くことが出来ます。しかし粉からでなく、蒸かした米(もち米かうるち米かの違いがあるようですが)に、ヤマゴボウの若葉を加えて搗(つ)くのだといいます。今も作る地域、人がある、とも聞きます。「あれは美味しかった」となつかしそうに語ってくれた先輩の顔を思い出します。

 長野市郊外の公民館で実演してもらった時には、若い人がヤマゴボウを摘んできてくれたのですが、教えてくれた年配者が、自分も昔は餅について食べたと話してくれたそうです。若い人は、そんなことは知らなかった、ここにもそんな文化があったのですね、と話していました。こうやって、信州でも相当に広い地域にあったものが、伝承が薄れてしまった食べ方の典型例でしょう。

 もう1つは、諏訪や安曇の方で今も盛んに作る「凍り餅」。これは昔、ペッタンペッタン搗いたものだと言いますが、近年は機械化して米粉から作る、とも聞きます。信州ではこの時にヤマゴボウは使わないようです。出来上がった「凍み餅」(凍り餅)の食べ方は、東北とは少し違いがあるようですが。

 ――その後小海町では、この「凍み餅」を作るために水田に田植えをして準備しているということです。

 ヤマゴボウにしろ「凍み餅」にしろ、伝統や風習、さらに文化の問題としても研究する余地がありそうです。

 東北地方では、飯舘村に限らず、以前からかなり広い範囲で「凍み餅」の類いを販売しているようです。ヤマゴボウを使わない地域もあるらしい。

 東北と信州は、どこか共通の山野の山菜等の文化があります。ヤマゴボウの利用もその1つでしょう。南安曇南部から木曽郡にかけては、いくつかまだ利用の実態を聞くことが出来ます。そうした全体像の研究などはまだ行なわれていないようです。

 また、これからヤマゴボウという伝統の技術、文化をどう生かしていくか、という課題を皆で一緒に検討する機会があってもいいように思います。しかし、県内の利用者は、どの地域でも老齢化が進んでいて、まとまって何かをやる機運はないようです。とても残念なことだと思います。

2012年7月20日掲載

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