TOP2012年07月「夏のそば」の味わい 夏ソバの栽培は増えたか

 少し前から、今年は「夏のそば」が急に味が落ちたのかしら、と気になりました。

 相当ないい味を出す店でも、暑くなったら妙に材料の質が物足りなく感じる機会が多くなったのです。いつもの年なら5月から顕著にわかるのですが。今年は少し遅れて、6月後半から感じるようになりました。

 明らかに、昨年の国内産を上手に保管しておいた玄ソバがほぼ切れてきて、暑いのを口実に質の低下した粉を混ぜるようになったのかしら、と疑ったりします。

 また、水温の関係もあるのでしょうか、ソバの引き締め方が弱く感じる店が多くなりました。口ざわり、歯ざわりが柔らかい。ついモグモグ感が癖になりそうな気もします。これも、少しは職人が、季節変化、温度変化についていかない、配慮が足りない結果かしら、と思うことがあります。

 特に東京流(江戸流)の打ち方の場合は、シャキッとした仕上がりが「なまくら」になると、味わいがつらくなったりします。かといって冷水でゴシゴシ洗って締めて、本来の風味まで失うのもどうかと思います。材料の香りや味が弱い粉(ツナギを含めて)を使う場合は、用心をしないと、蕎麦らしさがどんどん消えていきますので。

 たまたま、7月末にイベントがあった機会に戸隠を訪れました。まだパワースポットブームが続いているようで、観光客がたくさん訪れています。先日はあるそば屋で、もうブームは去りました、と聞いていたのですが。他の観光地と違って、戸隠はしぶとくにぎわっています。

 そば屋は2軒食べたのですが、どちらも、いかにも「夏のそば」になっていました。材料かツナギのせいか、どろりとした歯ざわり。噛んでいると、蕎麦から冷や麦の味に近くなったかと錯覚しそうでした。これが今の戸隠の蕎麦の水準か、とがっかりしました。

 そういえば戸隠で先月に食べた、いつもはまあまあの味の店。食べたざるそばが、あら、どうして? と言いたくなるほど、焼けたようなつまらない味になっていました。つい、「粉屋に、客に夏の蕎麦になったね、と言われないような粉にしてくれ、と言いなさいよ」と余計な(生意気な)感想を言ってしまったものですが。

     ☆

 そして、ちょっと気になって農村部へ行き、ソバ畑の様子を見て歩きました。

 戸隠では今がちょうど「夏ソバ」の収穫時期。見事に刈り取っていくコンバインの活躍にしばらく見ほれたものです。

 よく見たら、いつもは秋ソバをぎっしり栽培している畑に、刈り取り直前の夏ソバが続いています。少し奇妙な気がしました。製粉工場が試験的に栽培している畑ならわかりますが、一般の農家が夏ソバをそんなに多く作るのが、不思議だったのです。

 刈ったばかりの畑を、トラクターがかきまわしている光景も見かけました。後で知人に聞いたら、それはきっと、すぐ秋ソバを作るんでしょう、と教えてくれました。そうか、コンバインで刈ると、かなりたくさんの実(種)がこぼれる。それをそのまま秋ソバの種として活用するのか、と感心しました。いや、その通りの話かどうか、本当のところはわかりません。

 戸隠村内で見かけた様子から考えると、今年はずいぶん夏ソバが多い印象です。あちこちの畑で収穫を待つばかりの実り具合でした。全国的にも増えているのかも。

 そういえば九州の方で、「春ソバ」が実用化されてきた、というニュースを見かけました。妙な早期出荷の競争が始まっているのかしら、と感じます。

 そもそも、秋ソバと夏ソバの区分がむずかしい。

 最近の言い方だと、北海道の早出しのソバは、今は夏ソバに分類されているようです。本来は気候の関係で早めに栽培し、早めに収穫する。「日本一早い新そば」と誇っていたのですが。

 近ごろははっきりと、夏ソバの新そばを堂々と言う地域が出てきました。昔は、夏ソバの味は物足りないが、などとよく言われたそうです。それかあらぬか、信州では、つい最近まで、夏ソバはほとんど市場に出まわらないほどの量だったと聞きます。

 これがさらに進んで「春そば」も言うようになると、栽培や味の関係が、実にややこしくなるような気がして、とまどいます...。

 考えてみれば、昔の人の格言で、「ソバは土用の土を3日かぶればいい」と言われたそうです。つまり、どんなに暑くなって乾燥していても、土用のころに蒔いて、3日もすれば芽が出て成長する、そして霜が来る直前に収穫出来るのだ、というわけです。近年の地球温暖化と言われる状況だと、なおさらこうした言葉が生きてくるような気がします。

 きっと、研究熱心な農家は、夏ソバを刈り取ったら、すぐ秋ソバを蒔いて、年に2回収穫することを目論むのでしょう。一方では、夏にソバを作る畑には、秋ソバを栽培しない、とも言います。味とか収穫量に影響してくるのかもしれません。

 ――そうしたことなどをぼんやり考えながら、実ったソバ畑を見まわしたものでした。夏ソバと秋ソバの実り方が微妙に違うようなので、同じ比較はできませんが、確かに夏ソバの方が実りが少ないようです。

 それでも、秋ソバの種蒔きが早い場所でも始まったばかりで、収穫はまだだいぶ先。こんな時期の、貴重な「新そば」の材料として、味、量ともに期待したいものです。

2012年7月31日掲載

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