TOP2012年10月十割と二八の比較 北海道の「新そば」で味見

 長野市内のそば屋で。久しぶりに入ったのですが、そこそこに客が入っていて元気そうでした。表の看板にひかれて期間限定の蕎麦を注文しました。

 私のすぐ前に入店した男女の注文が聞こえてきました。私と同じ「二八」を頼んでいます。女性店員は「十割」に誘導していましたが。200円ほどの違いで、私もつい、二八にしてしまったのです。

 この店に限ったことではないのですが、「十割を始めました」という貼り紙を見て、何度か十割を食べて、二八とあまり変わらない味だと思う例が多かったものです。それで、両者がある場合は、割と二八の方を頼むことが増えていました。

 そうした個人的な感想とは別に、私と同じような印象を持つ蕎麦好きが、かなりいるようです。十割そばは「限定10人分」などと書かれていて、遅い時間に注文しても食べることが出来る場合がほとんどです。観光地はともかく、地元客が多い店では、少し高い十割そばは、飛ぶように売れるメニューではないのです。

 そして駅近くの大きなそば屋で食べた「十割」のショックがありました。

 「新そば」の幟に引かれて入ったのですが、二八と十割があって、両方とも新そばだ、といいます。それじゃあ十割で食べてみるか、と注文しました。

 出てきた蕎麦が、ちょっとひどい味でがっかりしました。角がとれた丸い麺、ドロリとした口ざわり。もちろん味も相当に落ちるものです。これじゃあ新そばも十割も無いなあ、とがっくりきました。別に用心したわけではないのですが、中盛り、大盛りにしなくてよかった、とホッとしましたが。やっとのことで食べ終えて、考えました。十割を注文する客があまり無くて、昨日打ったのが残っていて、それを使ったのかしら、と。たまに聞く話ですので、無いこともないだろうな、と思った次第です。

 しょうがないから、「口直し」にもう1軒寄りました。ここも「新そば」の幟が立っていましたが、ご主人の話だと、まだ北海道産の新そばで、今年はあまり品質がよくない、それで古い粉と半分ずつブレンドして使っています、とのこと。その言葉に反して味はかなり良くて、きちんとした「口直し」が出来た気分です。

 今年の北海道産の出来は、たいへん良いという説も聞きます。地域によっても違いがあるでしょうから、一概には言えません。もう少し様子を見ることにしましょう。

 それにしても、二八と十割をメニューに並べる店がかなり増えています。少し前に食べた郊外の店の十割は、ちっともいい味に見えなくてがっかりしました。そうした経験を持つ蕎麦好きが多くなったのかしら、とも感じます。

 昔から知り合いのそば屋にはよく言ったのですが――。「一番安い基本的な蕎麦の味を、もっと磨いてちょうだいよ」と。

 十割が美味しい蕎麦は、材料がしっかりしていれば二八にしても美味しい。それが良心的なそば屋のやり方です。逆に言えば、二八が美味しい店は、十割ならもっと美味しいはず、となりますが。

 十割と二八の材料を変えて作る店もあります。いかにも十割が高級で、と差別化しているのでしょうが、あまりいい印象ではありません。

 雑誌などの紹介では、その店で一番高いメニューを食べてほめるのがよくあるパターンです。それだけで総合的な店のレベルを見るのは心配です。むしろ、安いメニューで店全体を推し量る方が無難だと私は思っています。安いメニューが美味しければ、他はもっと美味しいだろう、というわけです。

 十割そばの怖さは、材料の加工度合いでも違ってくる場合があることです。細かく挽いたソバ粉から打つのは楽だと言います。しかし細かい粉は風味や味が落ちるとも言われます。粗挽きがいい、と言われることがあるのは、ソバ粉の風味をよく麺に封じ込むからなのでしょう。そうした研究も相当に進んでいるはずです。十割が打てるという「技術料」が含まれた値段は、素材の性格とは違うはずなのですが。

 安い蕎麦は、「たかが蕎麦」でありながら、「されど蕎麦」という性格があります。安くてもそこそこに美味しい蕎麦がうれしい。別に十割そばを並べて高い料金をとるなら、きっちりと美味しい蕎麦に仕上げて提供して欲しいものです...。

2012年10月 5日掲載

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