TOP2013年06月「手打ち」が消えるそば屋も 機械の技術はまだ物足りない

 この冬のことでした。ある有名な、郊外の道の駅のそば屋で。

 注文して待つ間ぶらぶらしていたら、ガラスの窓の中の打ち場で、若い男性が蕎麦を打ち始めました。器用に素早く伸ばして、切るのは歯車がついたピッチの包丁で。実に手際よく仕上げていきます。すぐ見物人が寄ってきて人気を集めていました。

 食べる段になって、出来てきた「ざるそば」はしかし、手打ち蕎麦とは言えないようなシロモノ。あれまあ、あんなに上手に打っていたのに、とびっくりしました。

 どこか、生地の段階で均一に(均質に)練り上げてあって、これは相当に機械を使っているな、と感じました。見た目も舌ざわりも、少しドロリとした作りです。包丁で切っても、茹で上がっても、形はたいへんきれいなのですが...。

 食べたすぐ後で、そんな事情を知るらしい女性と偶然に話す機会があり、感想を言いました。あれは伸ばす前の練る段階で機械を使っていると思うよ、と。その女性はニコリとして、見もしないで食べただけでわかるんですか、と笑っていました。図星だったようです。

 もともとが、地元でとれたいい材料を使うとは思っていなかったそば屋なので、味にはそれほど失望感はわきませんでした。それにしても最近、ますます商売上手になってきたなあ、とは感じましたが。

     ☆

 後で、別の知り合いのそば屋に話したら、練るのは機械でも一番むずかしい、ほんのちょっとしたことでえらく違ってくる、と教えてくれました。先ごろの店は郊外で、旅の人を相手に商売していれば、こうなるのかしらん...。

 そういえば、同じような味の蕎麦を、東信地方の道の駅で食べた記憶がよみがえりました。やはり「手打ち」の中に、機械を使う場面があるなあ、と感じたものです。名物の汁などで評判を高めているのですが、本格的な旨い蕎麦とはいかないようです。

 昔のことで言えば、鉄道の立ち食い蕎麦で、手打ちを提供していたという駅があったと言います。私が食べたころには、まだ手打ちだったか、機械製になっていたかの境い目の時期。味はよかったです。そんな「神話」があるくらいの味のレベルが、だんだん、語ることが減ってきて...。それと同じような事態が、信州各地の道の駅で進行しているような気もします。

 駅の立ち食い蕎麦は、信州では今も健在です。道の駅や高速道路のサービスエリア等の蕎麦も盛っているようです。しかし、あまり本気で味を語ることがなくなりました。そんな風潮が、一般のそば屋にも広がるのは困りもの。

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 数日後に、やはり北信濃の山村のそば屋で。普通の「ざるそば」を食べたのですが、以前より味がかなり落ちた気がしました。この店はどうやら、ご飯などもついたセット料理が主体になっているようです。

 そしてメニューなどを改めて見ると、「手打ち」という言葉が見当たりません。そうか、もう切り替えたのか。この店の町の方の支店では、早くから機械打ちらしい味になっていたなあ、と気がつきました。山村であれば、いったん力を抜いて味が落ちると、回復するのは無理かしら、と案じたものですが...。

 いやいや、そういえば、長野市内の老舗でも、妙に「部分的に機械を使った蕎麦」のような味にぶつかりました。やはり「手打ち」の文字が見えなかったと記憶します。この店も支店では機械を使う蕎麦を商っています。ちょっと感想を言ったら、内儀さんがムッとした顔をしましたが、否定はしません。半分は当たっていたように私は受け取りました。

 こうやって、手打ちから機械製品へと、信州の蕎麦が大きく変化しつつあるのかもしれません。機械の扱いに慣れないのに機械化すれば、当然味が落ちます。みんなして、信州そばの味を落として、評判を悪くしているのでしょうか。一瞬、背筋が寒くなりました...。

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 もっとも、最初に触れた郊外の店は、2カ月ほど後に訪れて食べてみたら、機械製の要素があまり感じられなくてホッとしました。急いで軌道修正したのかもしれません。

 あちこち食べ歩きをしていますと、大した味ではないけれど町の人に愛されている小さなそば屋で、大盛りを食べても最後まで支障なく食べられる味に時々出会います。

 そんな時に、ああ、「手打ち」が味を救っているなあ、と思うことがあります。少なくとも、手ざわりをともなった作り方、仕上げ方で、客に何とか満足してもらえるようにと、気持ちをこめる職人・旦那の心構えが、手打ちだと生きてくるように思うのですが。

 逆に、信州では、機械製の蕎麦の技術は、まだまだ物足りないのです。そちらの研究も進んでいることでしょうが、今のところは、手打ちの技術の向上に力を入れて欲しいと思っています。

2013年6月11日掲載

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