TOP2013年07月そば屋のマッチ

 久しぶりに入った田舎のそば屋で、レジの隅っこの方に、小さく固まったマッチを見かけることがあります。私など、つい手を伸ばして頂戴してしまいます。そういえば昔、同じデザインの箱をもらったことがあるなあ、と思い出しながら。

 信州で蕎麦の食べ歩きをして長くなりますが、昔はよく、そば屋のマッチをもらうようにしたものです。タバコを吸っていたからですが、石油ストーブに点火する時にも重宝しました。また、それとなく、そば屋のマッチには面白い箱があったものです。いわば集める趣味が付随していた、とも言えます。

 そして使ってしまったマッチ箱を、一時はそのまま保管していました。並べて眺めていると、けっこう楽しかったものです。そのうち、数が増えてくると、保存しておく場所に困ってきました、意外にスペースをとるのです。箱のまま保管するのは無理か、とあきらめました。

 それで思いついたのが、食べたそば屋のそれぞれに、1枚ずつのカードを作り、そこにマッチの箱を開いて貼り付ける、というやり方です。これだと紙1枚になり、綴じておくことも出来ます。――数えたことはありませんが、けっこうな量になっていることと思います。

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 ここ数年、喫煙の害が声高に叫ばれるようになり、そば屋も「店内禁煙」が広がってきました。気がついてみたら、灰皿を置いてある食堂がどんどん減りました。それでもマッチは、大量に作ってしまったのでしょうか、そば屋では、今も時々置いてあります。

 そうだろうな、と思うのは、その店の主人がタバコを吸う店は、机にさりげなく灰皿が置いてあったりします。それでも最近は少なくなりました。よく見かけるのは、店の外に喫煙スペースを置くパターンです。「分煙」というわけです。

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 マッチ箱にかわって、「箸袋」のコレクションをする愛好家もいるようです。箸袋はもともと、使い終わったらもう実用の価値はないので、集めるのは単に趣味だけでしょう。

 箸も時代の傾向を映していて、割り箸でなく洗って何度も使える箸が増えました。面白い傾向です。それでも昔は、蕎麦には割り箸で、と決まっていたものです。麺類にはなめらかな箸よりも、少し角が立つような、荒い肌ざわりの方が向いている、と長い間見られてきました。しかし切り替えてみれば、滑らかな箸であっても、それほど苦にせずに食べられるような気もします。

 とはいえ、簡素な割り箸で、前歯に軽くくわえてバリッと割る感覚も粋なものです。割り箸ならではの楽しみのような気がしますが、これももう、やる人が減ってきたようです。

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 マッチのかわりというべきか、名刺のようなカードを置く店が増えました。食べる側からすると、その店を訪れた証拠になるような気がして、つい1枚頂戴して帰ることがあります。本当の宣伝効果があるのかどうか、私にはよくわかりませんが。

 最近はレジでレシートを出してくれる店が増えました。売上げを隠す目的で何もカウントしない店もありますが。一種の証拠品として、マッチがわりに必ず渡した方が、今どきだったら感じがいいように思います。何を食べたか、いくらだったか、時刻がどうだったか、などが記されていると、安心です。

 とはいえ、レシートよりも名刺状のカードの方が保存がききます。他人に美味しい店を紹介するにも便利です。さりげなく宣伝用に使ってもらえるような工夫は、もっとあってもいいように思います。
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 いずれにしろ、マッチ箱の宣伝用の役割は、ほとんど消えてしまったような気がします。つまりは、持ち帰る客がぐんと少なくなっているようなのです。

 そのせいか、マッチをくれる店は、意外に減らないようです。せっかく大量に作っておいたマッチですから、お客さんに持ち帰って頂き、家庭で、会社で宣伝になるように使ってもらいたいのでしょうが。そもそも、マッチを使う場面も使う人も減ってしまって、持ち帰る人がごく少なくなってしまったのでしょう、きっと。

 たまに見かける、昔と同じデザインのマッチ。もう遺物扱いかもしれませんね。それでも、そのうちに多くを並べて遊んでみようか、などと空想することがあります...。

2013年7月10日掲載

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