TOP2013年07月寒ざらし・雪がくし... 寒中保存の効果は

 今年は年初から信州でソバの「寒ざらし」とか「雪囲い」などの話題が多く聞かれました。そして夏場になって、各地で名物そばとして盛んに宣伝されています。以前と比べて実施する市町村の数が多くなると、それなりの特色が浮かびあがってくるような気もします。

 こうした水で冷やす(さらす)、雪の中で保存する、などの他には――従来は土蔵の中に保管すると味が落ちないと言われてきました。今も実践する若い人がいて、食べたことがありますが、夏でもかなりいい味を出していました。

 また冷凍する方法があります。だいぶ前から、冬に挽いた粉を急速冷凍している、というそば屋の話を聞くことが出来ました。それで仲々旨い蕎麦を出す店と、話の割には大した味ではなかった店と、両方を食べたことがあります。元の材料の違いが、かなり影響するのかしら、と思ったものです。玄ソバを冷凍する方法も研究されているようです。

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 そういえば以前、標高の高い名産地で聞いた話。蕎麦を大量に栽培し食べていた時代です。粉にするのには水車で一度にたくさん作業しました。しかし厳冬期には川の水が凍り、水車が動かなくなります。そういう場所では、12月にまだ川が凍る前、冬じゅうの粉を挽いておくのだ、と話してくれた人がいました。

 そんなことをすれば風味が落ちてしまうのではないか、と心配するのは現代的な感覚です。昔はそうした感覚は少なかったらしいのです。もっとも、昔のことですから、室内でも氷点下になるような寒さの中だったら、あまり風味は落ちなかったようなのですが。県内では2箇所でそんな話を聞いた覚えがあります。相当に広く行なわれていた習慣かもしれません。今の時代、粉にして冷凍保存するのも、わかるような気がしますが。

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 さて、「寒ざらしそば」とは、寒の時期に清流などの冷たい水に一定期間(10日~2週間が多いようです)浸して、それを乾燥して保存する、というもの。この作業をすることによって、玄ソバの雑味が抜け、甘みが増すとされています。江戸時代に将軍家へ信州の大名が献上した、とされています。夏場になっても美味しい蕎麦が食べられる、というわけです。

 この「寒ざらし」は、全国的にも各地で行なわれています。主に東北地方や北関東が盛んで、そば業界では一定の注目を集めているようです。長野県では諏訪地方が研究熱心です。茅野市や伊那市高遠、また上田市武石などでも作られます。

 その味については、私が以前食べた限りでは、大きく特色があるとは思えませんでした。しかし、それなりに味が向上する理由があるのでしょう、専門のソバ業者の中には「寒ざらしそば粉」を売り出している会社もあります。値段は少し高いようです。

 茅野市ではいくつかの店で、今年も「献上寒ざらしそば」がメニューに載せられています。7月19日から10日間だそうです。興味のある方はお出かけ下さい。

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 雪の中に保存しておくやり方も、これも各地で試みがあります。長野県内では今年、長野市戸隠と飯綱町で行なわれたのが注目されました。両方とも雪深い地域です。他にも小規模な試みがあるようです。

 雪の中に囲い込んでおくというのは、たぶん、日本酒の方が先行していたように思います。初冬から寒の時期ころに、新酒をしぼって瓶などに詰めたものを雪の中に埋める、囲い込む。晩春か初夏のころまで保存しておくと、低温の一定温度の中で、じっくり熟成がすすむというわけです。美味しいという評判があるようで、手間をかけた分、少し高めに売られています。

 ソバに関しては、お酒と同じように美味しくなるはず、ということで始まったのでしょう。お酒の場合は、酵母を生きたまま保存するといい、と聞いたことがあります。どの程度の「生きた」内容なのか、報道などでは伝わってこないのですが。

 そこへいくと玄ソバは、もともと生きたソバ粒ですから、夏に蒔けば芽が出て成長するはずのもの。雪の中での冷蔵は、合理的なものかもしれません。

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 戸隠のものは、「雪がくしそば」ということで、6月上旬から売り出しました。雪中保存は去年も試みられたということですが、今年は大規模に、多くのそば屋が取り上げています。

 ここの特色は、材料は同じものを使うが、食べるメニューは各店で違うこともある、というようです。一般にはざるそばが多いようですが、「そばがき」で提供する、特に粗挽きの粉で打ったものを出す、予約にしている、などとさまざま。値段は特に高くはしてないようですが、これも店によりまちまちです。

 試しに2軒ほどで食べてみたのですが、特に美味しいというものでもありませんでした。いつもよりいくらかいいか、いや、同じか、とも感じました。

 他の店で聞いたのは、面白いことに、元(ベース)になるソバ(玄ソバ)が良質な地元産だから、割と美味しい味になるはず、というもの。そういえばそうだ。地元の農家や有志、製粉会社も協力して、新しい有力なブランドを作るべく試みているので、一番上等な玄ソバを使ってあるのでしょう。

 夏場の一定時期に提供する、店によって扱いが違う、ということなので、食べるなら地元のそば屋、あるいは観光協会などに問い合わせるといいでしょう。

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 飯綱町の場合は、地元の振興公社が、特別な建物を作って、雪で満たし、そこにリンゴなどと一緒に玄ソバを保存したもので、「雪ねむりそば」と名乗っています。提供するのは地元のそば屋「よこ亭」で、8月中くらいはあるようです。特にメニューに載せてはなくて、普通の「ざるそば」を食べても、値段は同じ。つまり区別していません。食べた味はなかなかのもので感心しました。

 もっとも、この町では近年ソバの栽培が盛んになって、数少ないそば屋で消費する量では余るような事態と聞きます。そこに去年の豊作、そしていい味の玄ソバが大量にあるのです。「雪ねむりそば」と称していてもいなくても、保存さえ良ければ材料の良さが表に出てきて当然です。いわば、良質な保存状態で打つことが出来た、という性格もあるような気がしました。

 来年以降、毎年の収穫した玄ソバを、同じような美味しい蕎麦に仕立てることが出来るかどうか、勝負はまだ続くような気がします。

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 茅野市の「寒ざらしそば」も、7月下旬まで続くようです。機会があれば試みて下さい。去年の地元産の上質な玄ソバを使ったものなら、きっと例年にも増して美味しい蕎麦を食べられることでしょう。

2013年7月20日掲載

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