TOP2014年02月温かい蕎麦の味わい 戸隠冬の陣/門前そば

 今年の冬は、妙に寒さが厳しく感じられます。こんな寒い時期は、いつもの「ざるそば」「せいろそば」などではなく、温かい蕎麦を食べたくなります。そんな中で、冬らしいイベントがいくつかありました。手近なものをのぞいてみました。

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 珍しく長野市戸隠では、「戸隠そば冬の陣」と称して、「温盛(あつもり)半ざるそば」を提供する、といいます。期間は2月3日から3月3日までの1カ月間。戸隠の10~20店で、温かい(熱い)そばを出す、食べ歩きに便利なように3軒分で1200円です。秋の「半ざるそば」の延長というか、続編のような企画です。

 広告によれば、「温盛(あつもり)そばとは、ざるそばをあたたかくして食す冬期限定の食べ方です」とのこと。他にも2月3日の「戸隠節分そば」、3月3日の「戸隠雛祭りそば」もあります。

 2月上旬、さっそく食べに行ってみました。まだ宣伝材料が少ないらしかったのですが、店の入口に「温盛そば参加店」と貼り出してあるのですぐわかります。この時期、さすがの戸隠もスキー場の賑わいはありますが、旅館街のそば屋は実に静かなものでした。休む店も多く見かけます。かなり暇なのでしょう、その対策としてのイベントと受け取りました。

 そば屋では先にチケットを買うので、半ざるそばの3軒分は、合わせて大盛り1枚分くらいかしら、という量。一度に3軒をハシゴして食べ歩きました。昼食時でしたが3軒とも客は少ない。あまり統一してなくて、それぞれの店で工夫しながらのメニューに見えました。

 たとえば1軒は、熱いお湯を張った中に麺が入っている。「釜上げうどん」の蕎麦版のようです。ああそうか、こういう食べ方もあるんだ、と感心しました。当然、麺は軟らかくなっています。それでも箸で持ち上げてすっと千切れるようなことはなく、意外にスムースに食べられました。

 別の店では、ザル(戸隠特産)にボッチ状に並べたもの。かなり温かいのは、ザルごとお湯に浸したものを運んできたのかしら、と思いました。中まで相当に熱くなっています。別の店では、ザルに蕎麦を盛って、熱湯をかけたのかしら、と感じました。

 今回、少し食べてみて、まだ統一が出来ないのだろう、想像しました。

 こういう「温盛り」「熱盛り」という技法は江戸では早くから行なわれていたもののようです。元をただせば、蕎麦をゆでるのでなく「蒸かす」ことから始まった調理法だといいます。江戸のお菓子屋がやっていた、とも言います。そんなことを土台にした、今回の戸隠の試みでした。1カ月間続いています、興味を持った方はどうぞお出かけ下さい。

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 長野市善光寺界わいでは、恒例の「長野灯明まつり」に合わせて、今年も「門前そば屋のそば食いねえ」が始まりました。2月8日~16日、12軒のそば屋が、夕方5時から8時半までの間に、半ざる・半かけを300円で食べられる、割引きなどの特典つき、というものです。

 例年、多くの客が走りまわるようにして我先に食べているのですが、今年は少し様子が違いました。というのは、開始日の8日はご存知のように全国的に、そして全県下で大雪が降りました。寒さも厳しく、お客さんの出足が鈍かったようです。

 この寒さもあり、今回は「半かけそば」を中心に食べ歩きをしてみました。

 ほとんどの店で、丼に盛って出します。薬味はネギ、唐辛子だけ。唐辛子はテーブルに置いてあるもの、あるいはお盆に蕎麦と一緒に運んでくるというもの。簡素なセットになります。ネギなど、蕎麦に載せてくる店もあります、これは今どきの言い方だとトッピングになりますか。

 汁の味の方はまちまちです。もともと、「もり汁」と「かけ汁」とは違う作り方がいい、と言います。その区分がわからない店もあります。「かけ汁」としては、澄んだツユもあれば、かなり濃いツユもありました。塩からいものも少し。今どき、減塩が言われている中で、あまり塩分が強いのは困ります、汁だけをすすることもあるものですから。

 蕎麦自体は、細めの麺がほとんどでした。味はいろいろ。妙にしっかりした蕎麦だなあ、と思ったら、どうやら手打ちでなくて機械製のよう。看板にも、いつも間にか「手打ち」の文字が消えていたりします。

 とはいえ、やはり肝心なのは、汁と麺の相性というかバランスというか。老舗であっても、バランスがよくない店がいくつかありました。

 「かけそば」と「ざるそば」の違いも感じました。

 いつもなら「ざるそば」「せいろそば」など冷たい蕎麦が割と美味しいと思ったのに、「かけそば」が意外に味が落ちる店。特に、お湯で洗うせいでしょうか、妙に旨みが減ってしまって、歯にクチャクチャとくっつくような、グレー(灰色)になった蕎麦が出てきた時にはびっくりしました。どのように加工、調理するのか不明ですが、美味しさを洗い流してしまったような味にはがっかりしたものです。

 逆に、普段は「ざるそば」が大した味ではないなあと思っていたのに、意外に「かけそば」だと食べられる店もいくつかありました。老舗に多かったという印象です。

 味にうるさい別の店で聞いたのは、「かけそば」は本当はかなりむずかしいものだ、と教わりました。確かに、食べ歩いてみて、単純な姿だけに、余計なものをくっつけてごまかすことが出来ないようです。天ぷらそば、しっぽくそばなど温かい、具が入ったものも、調和のとれた美味しいメニューとして定着してもらいたいと願います。

 会期は16日まで。まだ間に合います、お早めにどうぞ。

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 冬場の温かい蕎麦については、ずいぶん前に、奥信濃のそば処で聞いた話を思い出します。

 秋の伝統のお祭りを見学しに行き、民家に泊めて頂いた折に、美味しい冷たい「ざるそば」をごちそうになりました。ご主人の話で、実は蕎麦といえば冬に温かいものを食べるのが普通だったと聞きました。そうか、やはり、と思いました。

 古い時代に、冬の暖房も囲炉裏が中心だった家々では、冷たくした「ざるそば」などは敬遠されたのでしょう。食べたのは一般に言う「とうじそば=湯じそば」だったそうです。確かに、囲炉裏を囲んで熱い蕎麦をすするのがありがたいものです。

 「とうじそば」は「おにかけ」「おこうがけ」などと呼んで全県下にあった食べ方だろうと私は推測しています。古い家などに残されている「とうじかご」を見かけると、ああ、ここでも「とうじて」食べていたんだなあ、と感慨にふけります。日常の食事の用意として煮炊きするのに、囲炉裏の火が中心だった時代は、鍋一つで調理出来る、こうした食べ方が向いていたことと思います。

 この「とうじそば」は、松本近辺では村で、また町で提供する店がいくつもあり、近年は松本地方の名物に成長しつつあるか、と推測しています。作り方はだいたい似ているようですが、汁の具など各地の特色が残ります。

 奥信濃の場合は、戸隠と同じようにザルに玉状の盛りつけをします。これは新潟県の「へぎそば」にも通じる特色でしょう。あるいは、東北地方まで、また中部地方全体にあった手法かもしれません。

 こうした、寒い信州、あるいは田舎の食べ方として、現代に合う技術を確かめながら、今の時期に広まっていくとうれしいです。

2014年2月13日掲載

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