TOP2014年09月クレーマーだったか

 先日、遅い昼食に飛び込んだ長野市内のそば屋で。

 他に客は居ない、やはり少し遅くなるとガクンと客足が落ちるそば屋か、と思った。メニューを見ていたら、若い女性店員が、二八が終わってしまって、十割しかないのですが、と恐る恐る言う。そうか、もう二八は終わったのか。2種類の蕎麦を作り、十割があるのが自慢の店のようだった。たまに食べに来ても、値段が100円違うので、いつも二八しか食べたことがない。大盛りにすると十割は1000円になる。普段のランチにしては高くつく、それで並盛りにした。

 だいたいが、本来は、十割蕎麦が美味しい店は、二八蕎麦でも美味しいもの。いい材料であれば、2割の小麦粉を混ぜても味はあまり落ちないのが普通だ。そんな思い込みがあるので、つい二八にしてしまうのだが...。

 運ばれてきた蕎麦のセットを見て、猪口にツユがたっぷり入って盛り切りなのを見てがっかりした。あれまあ、十割なのに、と。

 食べると、蕎麦の味が割といい。ツユもわるくはない、少し濃い、塩っぱいが。食べ終わって、猪口にツユがたくさん残った。蕎麦と一緒に持ってきてくれたそば湯を、使う気になれない。他の器にツユをこぼして減らし、そこへそば湯を注げばいいのだが、見えすいた嫌味になるだろう、とやめた。結局は使わないで終わりにする。暑い日だったので、茶碗には冷水が入っていた。温かいお茶で口をゆすいで仕上げにすることもかなわなかった。

 勘定の時に、女性店員に、蕎麦が美味しかったのに、お宅のツユは濃い、塩っぱい。それでそば湯を使えなかった、とちらっと感想をしゃべった。店員は、顔色を変えて、済みませんでした、と謝る。何か不始末をしたわけではないので、謝る必要は無いのだが、こちらが戸惑った。いや、蕎麦が美味しいから言うのだが、とこちらの言い訳を少ししたが、どうも話が通じない。せっかくの美味しい十割蕎麦を提供するのだから、最後の場面で蕎麦好き、蕎麦通にも満足してもらえるように配慮して欲しかったのだが。

 店員はどうやら、クレームをつけられたと思ったのだろう、しきりに「すみません」を繰り返す。話が通じないので、だんだん腹が立ってきた。店の態度に、ということでなく、そんなことを言い出した自分が未熟だったかなあ、と反省しきりで。結果としては、単なる嫌味を言う変な客、クレーマーとなってしまったようだ。

     ☆

 ――――こうした話は、今に始まったことではない。もうずいぶん前、20年くらい前だったか。突然、知人から電話があって、とあるそば屋のことを、けしからん、と怒って訴えてきた。それは長野市内で割と美味しい小さなそば屋での話。古めかしい家で、女性が切り盛りしていた。知人はちょっとしたことで軽く注文をつけたらしいのだが、店側は本気でやり返して、論争になったのだという。そんな態度を客にとるのはけしからん、と息巻いていた。

 ――――あの店なら、そういうこともあるだろうなあ、低姿勢の割にはかなり芯の通った蕎麦を出すし、値段やサービスなど相当に心配りが行き届いている。有名ではないのだが、周辺の地元客がほとんどで、人気があって、昼食どきはかなり混むのが通例だった。その味にはどこか頑固な面もあったような気がする。それで半分口論のようになったのだろう...。知人の言い分の中に、美味しい店だから、つい、余計なことをしゃべってしまった、という嘆きがあった。

     ☆

 私が冒頭の店で感じたのも、美味しい蕎麦だったから、ちょっとしたことだが、工夫してくれればもっといい、と思うからこその一言だった。――――自信と裏返しの不安との混在で、こういうことになるのだろうか...。

 客から何か言われて言葉だけで謝るよりも、気持の上で、サービス面でしっかり対応してくれればいいのに、とよく思う。近年はそれが下手になったそば屋が多くなったような気がして見ている。

 この夏の観光シーズンはどうだったのか。穫れ秋の本番を迎える季節に入った。味の向上にプラスして、気持の切り替えも上手にやって欲しいと願うことしきりである。

2014年9月11日掲載

前の記事  サイトトップに戻る  次の記事

著者プロフィール