TOP2014年12月各地のそば祭りから(1) 食文化としての伝統も

 11月に入り、信州でも新そばが出回り始めた。特に産地である山村でのそば祭りは、時にはたいへん旨い蕎麦に出会うことがあるので、楽しみにしている。いくつか訪れた中の、駆け足の感想は...。

     ☆

 ○11月1日、上田市真田町の「真田新そば祭り」。何度か訪ねたことがあるイベントだが、以前と比べて蕎麦自体はずいぶん良くなった。食べてみて、進歩があるように見える。しかし運営がモタモタするのは相変わらずで、普通に食券を買って食べるのに、私は40分待った。別の人は1時間待ったとか。これだけ待つと、食券を買ったから食べるだけ、というみじめな気分になる。

 たまたま地元の知り合いを見かけたので挨拶。聞いてみたら、ほとんど食べたことがないという。そうか、地元住民は食べないのか。長い時間行列に並んで食べる空しさを、地元の人たちは知らないわけだ。そのことを指摘したら、知人は、後で食べたらしい。後から注文して、早く食べることが出来たようで、地元らしい情報があったのかもしれない。

 一方で、地元のソバ栽培から商品化を考えるグループがあり、ソバ粉を売っていた。買い求めて帰り、「そばがき」にして食べてみたが、割と美味しかった。そんな動きがあると、将来が楽しみになる。

     ☆

 ○3日、長野市信州新町左右(そう)で。30年か40年前にそば祭りが始まったころは、6軒でやっていた。だんだん数が減って、最近は1~2軒だけの開催である。昔と比べてにぎわいがなくなったのは仕方ない。毎度、晩秋の紅葉が終わりに近い時期で、天気がよければ全山黄色や赤に染まった山野の光景を楽しめる。

 参加軒数が減ったのは高齢化のせいだろうか。よくみると畑のソバ栽培はぐんと減っている。本来の地粉でもてなす機会がなくなったのかしら、とも思った。蕎麦自体の味はそこそこだったが、いかにもの素人らしいサービスが心地よく、意外に満足感が残った。

 帰りに久しぶりに裏の方へ、細い道をたどった。過疎に洗われている山村地帯で、耕作放棄地が目立つ。人家のまわりの野菜畑には厳重に柵がめぐらされ、動物による被害を防いでいる。以前は田畑があった場所がとっくに木々に覆われている光景もあちこちに見かける。そうした厳しい山村の現状をうかがう、また話を聞くことが出来るのも、イベントの効用かもしれないと思った。

     ☆

 ○7日、上田市で開かれた「日本そばサミットin上田」に出かけた。スケールの大きい催しで、広い範囲の会社、店、後援グループがあった。7~9日の3日間、上田城のイベント広場ではいくつかのそば屋のブースが出来て、500円で自慢の蕎麦を提供していた。3店の蕎麦を食べた。こうした場面ではなかなか旨い蕎麦を味わえないものだが、今回は「タチアカネ」「ダッタンソバ」など珍しい味に出会えた。ここで食べた味は、わるい印象ではなかった。

 ○この日の午後に開かれたシンポジウムは、各地で活躍している評者たちの報告が面白かった。その後のパーティでは、話題の蕎麦がたくさん試食出来た。残念なことに、濃いもり汁をかけてあって、蕎麦自体の味を見分けることが難しい状態だった。私は会費分を取り戻そうといくつもの小皿に手を出したのだが(皆さんも同じ?)、濃い汁の味ばかりが舌に残って、肝心の蕎麦の個性は頭に入らなかった。せっかくの試食の機会が流れてしまったような気がした...。

 遠方から見えたそば好き・そば通の皆さんには、信州の蕎麦の低いレベルの味、と映ったのではないかと気がかりだった。上田と周辺の蕎麦の実力をもう少し発揮出来るとよかったのに...。中でも、長野県の試験場が開発した新品種「ひすいそば」は、素材の良さを宣伝するだけでなく、特性を生かした美味しい作り方、提供の仕方を一緒に推進してくれるとうれしいのだが。

 こうしたスケールの大きいそば祭りになればなるほど、味には気を使って欲しいと思った。

     ☆

 11月9日。富倉、灰原、大田原と3カ所のそば祭りをハシゴして訪ねた。それぞれ、何度も来ていて、それなりの良さ、面白さがあるもの。そして、時期による変化もあると思った。

 ○飯山市富倉。以前にやっていた「山菜市」の名残りか、朝から開いている。午前中にたずねたが、住民の直売所は豊富な農産物がそろっていて楽しめた。利きそば、大根おろし、などの恒例の催しは人気がある。蕎麦の味は、近年はここも栽培が減ったのだろうか、往年の迫力はなかった。

 それでも、味だけでなく、住民の皆さんとの何気ない交流が、会話が、なかなかいいもの。坐りこんで野菜を売る老人、昔からの食べものを作って提供する女性たち。皆さん元気で、古い話にはよく乗ってくれる。こうしたイベントのうれしい一面だ。

 一方で、今年も国道からはずれて急斜面の集落の方へ行ってみたが、荒れた田畑、壊れた家も目立つ。幻と言われた富倉そばが、もうしばらく頑張って続いて欲しいと願わずにはいられない...。

 ○長野市信更町灰原は、山間地を登っていく過疎地帯の集落。もう10年ほどになるのかしら、ここのそば祭り。もとはと言えば、名物の辛い「灰原大根」が、「おしぼりそば」に向いている、という話から始まったような記憶がある。今も提供するのは「おしぼりそば」が主で、辛くない汁や醤油味も出来る。

 地域住民のボランティアでやっているのだろうが、狭い会場で、数に限りがあり、規模拡大はむずかしそう。蕎麦の味はまあまあで、手づくりの良さが生きていた感じだった。辛味大根、オリジナルの八味唐辛子を売っていて珍しかった。

 ○千曲市大田原は、市の西部の高地にある集落。マレットゴルフ場があって、近隣市町村の愛好者には親しまれる。そこの食堂「やまぶき」は、地元女性陣が協力して、蕎麦を中心としたメニューで運営している。もう10年くらい前になるか、手づくりの「そば祭り」を開催して、その後食堂の経営を任されている。マレットゴルフ場の開設期間に合わせた営業で、冬場は閉店する。

 ふだんの営業の他に、この日は、そば祭りとして割引きサービスをやる。また外のテントでは「おとうじそば」200円を特別に提供する。ここへ来ると、いつも自慢の「おしぼりそば」を食べるのだが、「おとうじそば」にもつい手を出してしまう。3軒目だが、スルスルと食べられた。

 いつもながら、女性たちの手づくり感がつきまとっていて、気持ちよく食べた。地元のソバ栽培のこと、地域全体の高齢化など難しい問題もあるようだが、味の水準を保っているのは素晴らしい。「おとうじそば」の出来上がりを見物しながらかわした短い会話の中で、「お煮掛け」と「おとうじ」とはちがうのだ、と教えてもらった。そんな微妙な言い回しの中に、伝統の食文化が生きているのがわかってうれしかった。

 考えてみたら、「お煮掛け」「とうじそば」というのは、ゆでた蕎麦(うどん、ソウメンでもやるが)を用意しておいて、食べる時に湯(汁)に通すという、「ゆでたて」に反するもの。しかしその味わいは、食べもの、食事としての旨さに通じるのではないか。だから、逆に、毎日のように同じ食べ方をして飽きる、あるいは嫌いになった、とも言われる理由があるのかもしれない。

 おそらく、こうした蕎麦にまつわる食文化を大切にしている方が、その地域の蕎麦自体の味を保ち向上させるのに役立つのだろう、とも思った。そうした姿勢の違いによって、味の差も出てくるような気がする...。

2014年12月 8日掲載

前の記事  サイトトップに戻る  次の記事

著者プロフィール