TOP2015年08月 「夏の蕎麦」と「寒晒し」

 今年も例の「夏の蕎麦」のシーズンになったのは、長野市近辺だと6月からだろうか。善光寺ご開帳や戸隠神社式年大祭といった大イベントが終わり、そば屋も通常営業になった時期、といえる。

 気をつけていたら、いくつかのそば屋の味が落ちてきたのがわかった。毎度ながら、気温~暑さによって材料のソバ粉の品質が落ちた、ということにされているのだろうか。味のいい材料を先に使ってしまって、後から少し悪い材料を多く使う傾向があるのかしら、と勘ぐるのだが、本当のところはわからない。

 こんな時期に合わせてなのだろう、「寒晒し(かんざらし)そば」なるものが話題になって、あちこちで食べられる。そのいくつかを食べ比べてみた。

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 長野市戸隠では、「戸隠雪がくしそば」と称して、6月上旬に17店舗で開始した、と新聞に出た。冬期間数カ月も雪中に保存しておいたもの、在来種の玄ソバで、という。本場の戸隠でやるなら、と敬意を表して食べにいく。

 最近新しく設置された、中社宮前の観光案内所で「雪がくしそば」の加盟店一覧を聞くと、置いてないという。あれまあ、どこへ行けばいいのかしらん。見当でいくつか寄ることにして。それでも、やっている店、とわかって訪れたら、もう売り切れです、と言われた。そうか、数は多くないんだ、とわかった。探しながら、聞いてから坐るようにして、3軒ほど食べた。店により味はいろいろだった。

 いつもは割と味にバラツキのある店は、その日はかなり美味しい蕎麦が出た。いかにもの雪中保存を謳う味、と感じた。特性を生かすためか、いくらか太めに仕上げてあったのもよかったか。ついで行った店は、かなり細い麺に仕上げてあった。ゆでる時間が短いのか、注文してすぐ出来てきたのはありがたい。しかし蕎麦の味はイマイチだった。どこか、力まかせにねじ伏せたような作りに感じられた。素材の良さが生きていない。生かすべき技術が発揮されていない、というところ。どういう姿に仕上げるか、その細かい過程は、どの打ち方が向いているのか、などが気になった。3軒目はまあまあの味だったが、ふだん食べているものとの差を感じなかった。やはり、素材の特性を上手に引き出すのは、それなりの研究が必要な気がした。

 価格は店により、いつもと同じ店もあれば、少し高く設定した店もあった。厳密な比較は出来ないが、美味しい味かどうか、値段のバランスはどうか、など、こうしたイベントにはギクシャクが出ることがある。客の側からみれば、その価値があるかどうかが問題で...と。

 総合的な印象では、使える全体のソバ粉の量が少ない、従って気楽に食べられないような気がした。ガイドや統一的なメニューの研究も必要だろう。そして何より、どこのそば屋でも美味しい「雪がくしそば」が食べられるといいなあ、と思った。

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 飯綱町の「よこ亭」で。久しぶりに食べた知人が、不味かったと感想を言っていたので、びっくりして、すぐ出かけてみた。

 私の時はいい味だった。ここは確か、雪室に保存して夏に取り出すはず、と思って勘定の時に聞いてみた。すると、今出しているのは全部、「雪ねむりそば」です、という。そうか、全部がそうなっているのか。メニューにはそのようには書いてなかった。つまりは、ふだんと同じ値段で商売しているのだった。

 店の近くの野菜直売所には、特設の雪室施設が出来ている。リンゴなどと一緒に、数カ月保存するのだという。ここ数年の間に定着してきた手法のようである。夏になれば味が落ちるとされる材料を、こうやって長く使えるようにした、というのは、この種の保存方法の原点だろう。

 後日、長野市内のスーパーで、乾麺になった「雪ねむりそば」商品を見かけた。地域で消費しきれない分を加工して売るのもやっているんだ...。かなりの量を「雪ねむり」に加工しているのだろうか。

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 知らないで入った駅ビルのそば屋で。

 表に大きく「雪蔵熟成そば」と掲げてあったので、それを注文する。最初はうまく通じなかったが、よく聞くと、ここも通常のメニューが全部、この「雪蔵熟成そば」になっているのだという。そうか、全部を切り替えてあるのか...。売り出しは1カ月ほど続けるのだという。雪蔵熟成は、北海道の雪深い場所で保存したもの、と書いてあった。

 出された蕎麦は、特に美味しいという印象は持たなかった。ふだんのメニューと同じ価格だとしたら、今は試行錯誤しながらの提供だろうか、と推測した。年間通しての美味しい蕎麦を出す工夫は、皆さん苦労しながらやっているのかなあ、と感じた。

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 茅野市の恒例の寒晒しそば。今は「献上寒晒しそば祭」となっている。7月中旬からしばらくの間の催し、もう9回目になるという。今年は11店舗が参加するとか、県下では一番規模が大きいのかもしれない。諏訪方面へ行く機会があったので、観光地の店2軒で食べてみた。

 1軒は値段が1200円(一般のセイロが900円のところ)。1日10人前の提供とかで、予約が入っているので残りはわずか、ということだったが食べられた。やや太めの仕上がりで、味はなかなかいい。うたい文句の「もちもち感」が強く出ていた。味の本体は、寒晒しにしたからという要素と、元の材料(玄ソバ)がいいのだろうな、とも思った。そばツユの盛り切りが、蕎麦通・そば好き相手というより、いかにも観光地らしい扱いに見えた。

 もう1軒は、値段がやはり1290円と高い(一般のざるそばは770円)。その味は、乾麺からゆでたのかしら、と思うほどだった。観光客が多いのだろうか、不思議な気がした。これはもう、寒晒し、あるいは地元産という名目が信じられなくなった。そういえば、手打ちという看板を見なかったような気がした。茅野市の町場で、地元客を相手にする場合とは違うのだろうが、寒晒しそばの名声を高めるのかどうか、むずかしいものだ、とも感じた。

 そういえば、以前に何回か茅野市の「寒晒しそば」を食べたことはあったが、値段が高くて当たり前、という出し方にびっくりしたものだった...。

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 去年も、寒晒しそばの味が、全部ではないが、一向に冴えない例をみかけた。

 寒晒しとは、一般的には、冷水に浸ける、あるいは雪の中で貯蔵するというものが多いらしい。雪の中でも、玄ソバが直接雪に接するのか、包装されて冷蔵されるのかの違いはあるだろう。どれが向いているのかの研究は、これからなのかもしれない。今はまだ、話題性が中心に見える。

 専門の粉屋は、別に、独自の技術、手法で寒晒しのソバ粉を作り、販売している。

 そして、何度も触れるが、寒晒しにする玄ソバは、粒を精選して、いいものを使うのだろう―--そんな味にはいくつか遭遇したことがある。だから、数量限定、従って期間限定の場合が多い。期間が過ぎたら、平凡な「夏の蕎麦」に変わるのだろうか。商売の手法、流れとして、理解しにくい面もある。

 とはいえ、うるさい事は言わずに、年に1回のイベントだから、楽しんで食べればいいじゃないか、という声も聞こえてきそうだ、ごもっとも...。

2015年8月 4日掲載

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