TOP2015年10月ソバ花めぐり(2) ひすいそばも満開

 北信に続いて、中信も走りまわった。

 北安曇郡白馬村。ずいぶん前から、蕎麦の話題は多かった。

 観光地として、観光客が見えると、蕎麦をよく食べる。それで民宿街などでは、早くからそば屋が多かった。たしか、「そば大学」のような催しがあって、地元に手打ちそばの技術が相当に広まった時期もあったと聞く。けっこういい味のそば屋が出来て、繁盛していたはずである。

 栽培も含めて盛んになるのは、ここ数年のことだったか。他の町村と同じで、水田転作の作物としてソバが本格的に栽培されるようになり、コンバインなどの機械化も進んだ。何かの折に見かけた収穫風景は、まだ扱いに慣れない様子がうかがえたものだった。

 今回訪れて感心したのは、例えば北部・新田地区のソバ畑の充実ぶりである。そこでは、大小の水田に栽培されており、自家用も含めて蕎麦を楽しむ雰囲気さえ感じられて頼もしかった。観光客に出して稼ぐだけでなく、地元の農家、住民がいい味を作り楽しむ状況が出てきて、初めて本格的な「蕎麦の里」になるのだろうな、と思うからである。

 南部では、道の駅周辺で多くのソバ畑を見かけた。かつては典型的な湿田地帯だった場所にも白い花が続く。土地改良が進んだのだろう。村は北部も南部も、スキー場が多く観光が盛んだ。冬場のスキー客、そして外国人にも蕎麦が提供されて、国際的にも広まるとうれしい。

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 大町市の新行(しんぎょう)地区(旧美麻村)は、蕎麦の名所としてすっかり定着している。10月中旬のそば祭りは有名で、内外から大勢の観光客が訪れる。ソバ栽培の一部は時期を早めて、そば祭りに間に合うような方法が定着している。

 9月上旬は、花盛りの田畑と、もうじき刈るばかりになった畑とが混在して興味深い。以前は、そば祭りの時期に、長い棒でたたく脱穀作業が見られたものだったが。今はコンバインが活躍するようだ。

 今年は、新行地区の中央の水田地帯では、ソバ栽培がぐんと増えたように見えた。育ちがそろっており、花はよく咲いていて、出来はなかなか良い傾向である。

 山ぎわの斜面の一帯では、もうじき刈り取りができそうなくらい進んでいる畑もあった。稔りの時期を迎えて、美味しい蕎麦が出来てきそうだなあ、と実感した。

 新行では、NHKのドラマ「おひさま」の撮影場所にもなった中山高原が、一種の観光スポットとして人気を集めていた。林に囲まれた一帯は、広いソバ畑になっていて、散策して見物する観光客の姿が続く。毎年のことだが、ゆったりと過ごすにはいい場所である。ただ、ここもミツバチが少なく、赤い「とうろう」もほとんど見かけなかった。

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 北安曇郡松川村は、安曇野の北の方の稲作地帯。それがここ数年、観光地化してきたためか、そば屋が増えた。村単位で十数店もあるのは珍しいのではないかと思うほど。味のレベルはバラツキがあるように感じる。

 この村でも、以前からソバ畑はそこそこに見られた。水田転作が多いようである。たまに山際のソバ畑に寄ると、花の時期には赤トンボを眺めることがある。青空をバックにして忙しく飛び交うトンボたちを観察するのはいい気分である。今年も、他の地区ではほとんど見られない赤トンボの群れを見かけてうれしくなった。

 赤トンボは、夏の暑い時期は涼しい高山で過ごし、気温が下がってきたら平地へ移動する、と聞いたことがある。松川村でお目にかかると、ああ、北アルプスから下ってきたんだなあ、とホッとする。

 たぶん、ソバ畑には小さい虫が集まってくる、それをトンボが狙うのだろう、と推測する。トンボが群れるソバ畑は、きっと、小さい虫も受粉の手伝いをして、実入りがよくなるのでは、と類推するのだが、実際はどうなのだろうか。

 松川村でも、小さい畑にソバの栽培が見られて、村内の農家なども、自家用に栽培して楽しむ傾向が出てきたのかなあ、と頼もしく感じた。

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 安曇野市はそば屋がたくさんあって、観光地の蕎麦が名物として定着しているようだ。

 そのことと関係あるのかどうか、よくわからないのだが、いつも通りがかりによく見かけるのが、広域農道沿いの旧堀金村のあたり。左右の水田に真っ白いソバの花が続く光景は、すっかり定着している。

 今年もかなり見かけたのだが、一部の水田では水が溜まったままだった。湛水という手法で生産性を上げる工夫なのかしら、と思ったのだが。また、妙にやさしい色の水田だなあと近づいてみたら、ソバの若い木だった。まだ10センチくらいになっただけのソバ。ずいぶん遅い栽培に見えた。

 振り返ると、奥の方に真っ白い花が見える。行くと、そちらに広いソバ畑がずっと続いていた。いつもよりソバ栽培の面積が増えたのだろうか、と感じた。

 このあたりは、いや、安曇野の一つの特徴なのだろうが、水田稲作が優先し、転作のソバは後回しになる、という傾向。栽培も収穫もずいぶん慣れてきているが、どことなく、まだ、本当に美味しい蕎麦の味を追究しているようには見えない。

 そんな傾向は、市内各地のそば屋の味に影響しているような気がしてならない。県外では有名らしい「安曇野産ソバ粉」だが、まだ米が優先する味が多いような気がする...。

 水田転作のソバ栽培の典型的な例として、安曇野のソバ栽培を注目していきたい。

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 急ぎ足で、塩尻市の北小野地区へ足を伸ばした。小野神社・弥彦神社や家並みが続く国道ぞいから一段上がった、広い畑作地帯が、真っ白なソバ畑になっていた。数ヘクタールはありそうな場所で、9割くらいがソバ畑。満開状態がそろっていて見事な光景だった。

 実はここは、長野県農政部が開発し推奨している「信州ひすいそば」の本格的な栽培地なのだという。ゆるやかな傾斜地は水はけも良さそうで、順調にいけば良質なソバが収穫できそうに見えた。

 立ち話で聞いた話では、北小野地区としては、「ひすいそば」の栽培は、勝弦地区が早かったのだという。それが今年は、北小野の有力な畑作地帯に大々的な栽培になったとか。関係者の努力が実ったのだろう。

 この地域で食べられるそば屋は少ない。主に他の地区へ出荷するために栽培しているのだろう。去年の他の地域の例では、販売単価がかなりいいようなので、上手に売れば、一般の信濃一号などより高い値段で売れるに違いない。商品作物として、儲かるソバ栽培の例になると面白い、と思った。

 「信州ひすいそば」の栽培は、周辺数キロ以内に他の品種が無いことが条件である。従って、まとまった栽培面積にするには、多数の農家の協力・結束が必要だ。そうした条件を乗り越えての栽培は、苦労もあるかもしれないが、これからの信州そばを背負う頼もしさも感じた。

2015年10月 2日掲載

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