TOP2015年10月ソバ花めぐり(3) 伊那谷の盛況

 9月上旬から中旬に、東信から南信方面へ抜けた。

 上田市に隣接する青木村は、近年、「タチアカネ」の栽培に力が入っており、そのソバ粉で打つ蕎麦を名物にしようと、村を上げて取り組んでいる。

 村の入口にあたる「道の駅あおき」の周辺に、今年は「そばタチアカネ(地域限定栽培)花・実まつり」と書いた幟がいくつも立ててあった。国道143号を通る車からもよく見えるようにという宣伝である。

 既に花が満開から稔りの時期を迎えていた。近づいてよく見ると、つき始めた実はほとんどがピンク色に染まっていて、なかなか見事な光景だ。もう少ししたら濃い赤色の実がぎっしりついて、ドキッとする状態になるはず、と楽しくなった。

 タチアカネは、これも県の農業試験場が開発した新しい品種。元は信濃一号で、選抜など苦労を重ねて作り出したという。特徴は、背丈がわずかに低く、茎が丈夫で倒れにくい、というもの。「タチ=立ち」である。そして、花から実がついて稔っていく途中で(登熟期)、真っ赤に染まるという特色がある(アカネ=茜)。完全に稔ると、普通のソバと同じで茶褐色?黒になってしまうのだが。

 味の方は、信濃一号より良い、とも言われるが、何度か食べてみて、それほど大きな差はないように思った。

 タチアカネは、花が赤くなる「赤ソバ」とは性格が違う。つまり、他の品種と交雑しても、特に困る結果を招かないという。白い花のソバに赤ソバが混じると、収穫量が減る、などと言われて、最近は赤ソバの栽培が減って、見かけることは少なくなった。

 青木村以外ではタチアカネを本格的に栽培している地域を知らないが、興味深い試みを続けている、とも言える。「花も実も」というアピールが面白い。そして、その粉で食べるのは、村のいくつかのそば屋で。味はまだばらつきがあるように思う。これから、本格的な蕎麦の里として売り出す工夫を期待したい。

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 上田市郊外の塩田平の一角でも、ソバ栽培が盛んである。夏ソバも作ることがあるが、秋ソバは毎年見かけて、時々、少し貧弱な木(茎)が目立つことがあった。今年は木の育ちがいいようだった。タチアカネではないが、登熟期の赤い実=「とうろう」も見えて、よく稔りそうな気配だった。

 隣接する丸子町でも時折りソバ畑を見かける。昔から栽培する農家がいて、食べるところまで一貫して楽しむ空気があるような気がする。

 8月に通りかかった真田町の、「ゆきむら夢工房」のすぐ近くの国道ばたでは、いくつかのソバ畑が見えた。時期が少し早めの栽培で、早めに収穫を目指したようである。

 去年の11月上旬に開かれた「真田の里新そばまつり」はかなり盛大だった。各地に栽培グループ、手打ちを楽しむグループが出来ていて、この地区の名物として育てていくのかなあ、と感心した覚えがある。今年の国道沿いの花畑は、その勢いをつなげるような、蕎麦の里にも向く、真田町の宣伝にはうってつけの光景に見えた。

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 佐久地方では、最近、佐久穂町が「信州ひすいそば」の産地として、また食べる地域として名乗りを上げている。今年もかなり広い面積に栽培している、と聞いた。急ぎ足の途中で寄ったが、国道299号沿いでは小規模なソバ畑しか見えない。違う場所で栽培しているらしかった。来年は機会があれば見たいものだ。

 佐久地方では各地で、点々とソバ畑を見ることが出来る。浅間山麓などは典型的だ。どこでも、地元の住民がみずから栽培して楽しむ傾向があるように感じている。一方では、大産地、そして有名なそば処は少ないような気がする。北佐久では、いくつかのそば祭りが今年も開かれるはず、出かけた折に確認してみたい。

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 急ぎ足で伊那谷へも訪れた。

 上伊那地方は近年そば処として名乗りを上げ、成果が出ているようだ。辰野町、箕輪町、伊那市、駒ヶ根市、飯島町など、ソバ栽培面積が多く、そば屋も増えていると聞く。たまたま幹線道路沿いに見かけたいくつかのソバ畑は、どこも出来がいいように見えた。

 辰野町では、横川渓谷で多くのソバ畑を見かけた。奥の方までぎっしりの白い花で覆われていて壮観だった。町内にはいくつかの有名なそば屋があり、多くの客が訪れているとか。

 伊那市、駒ヶ根市は地域が広いので、どこで栽培しているのかがわかりにくい。それでも広域農道沿いはかなりソバ畑があって、車からも見物出来る。それぞれ、そば屋の数が多く、食べる側からも、伊那谷全体の中では関心が高い方だろう。いくつかのそば祭りも盛大に開催される。

 飯島町は以前は北部で割と広くソバ栽培があったような気がしていたが、今回は国道沿いでは、南部の方に広いソバ畑をいくつか見かけた。バイパスの広い国道が通じてきて、急いでの車窓からの見物になったが。また広域農道沿いでも点々とソバ畑を見かけた。住民が楽しんでいるんだなあ、という雰囲気を感じた。そば屋がだいぶ増えた、とも聞く。

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 下伊那では、飯田市に接する下條村でソバ栽培が盛んだ。道の駅が「そばの城」と名乗るほどで、観光客も蕎麦をお目当てに訪れる人が多いという。そこで聞いたソバ畑は、村の中央の位置になるか、国道から少し入った場所。毎年栽培している地帯だ。

 ソバ畑へは、小さいが案内板が立っていてわかりやすい。曲がり角に大きな看板が立ててあり、そこが団地のように栽培地になっている、とあった。ソバ畑も観光資源にしているのか、と感心する。

 数年前に訪れた時より、面積が広くなっていた。ゆるやかな斜面の畑が多く、ソバ栽培には向いているように見えた。花は盛りを過ぎた畑が多かったが、半分稔った姿は、どことなく、美味しい蕎麦になるだろう、と思った。

 下條村では、この団地以外にも点々とソバ畑が見えた。地元の住民の間に、蕎麦を栽培から食べるところまで広まってきたか、とも感じた。この村は最初は「親田辛味」という、姿は丸く、オロシにすると強烈に辛い大根が有名になったところ。蕎麦の普及はその後だから、歴史はそれほど長くないはず。さまざまな角度から、美味しい蕎麦の名所に育って欲しい、と期待する。

 他にも飯田市やいくつかの町村で蕎麦を売り出している。以前訪ねた時に各地でソバ畑を見かけた。「そば街道」という合同の宣伝もある。観光的には蕎麦が大事な題材になっているのは確かである。

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 伊那谷の最後に、木曽の開田高原へ足を伸ばしてみた。久しぶりだったが、ソバ栽培は健在のようだったので安心した。

 開田は古くから蕎麦の名所をうたわれてきた。一種の秘境のように語られる時代もあったが、広い国道が通じて、今は高原全体が観光地として相当な人気を集める。蕎麦は木曽馬と並んで有名だ。

 今回もさっと見ただけだが、栽培面積は相当に広い状態が続いていると感じた。特に今年は、栽培時期が早いのと遅いのとが混じり合っていたのも特徴のように思った。9月中旬に、もう刈り取るばかりの畑がかなりあった。また花が満開の畑も多かった。数年前から、そば祭りが10月上~中旬に設定されるようになり(今年は18日)、早い収穫で新そばが間に合うようにしたのだろうか...。

 開けた高原の各所から、夕暮れの御嶽山がよく見えた。1年前の噴火の悲劇は記憶に新しいが、火山の被害とは別に、大地の形成や観光の拠点としての御嶽山の恩恵も大きかったことを思った。

 開田にはそば屋がいくつもある。これからも美味しい味を追究して欲しいし、何度か訪れて楽しみたいものである。

2015年10月 8日掲載

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