TOP2015年10月ソバ花めぐり(4) 花の祭りは盛況

 9月には、信州の各地のソバ産地で、花を観賞するイベントがいくつも開かれた。ソバの花を見るなら、そうしたイベントに併せて訪れると、花も実も味も楽しめる、というわけである。

 宣伝効果もあるのだろう、それぞれは一応の魅力があって、かなりの人を集める。そのいくつかを、今年もめぐってみた。

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 9月13日、山ノ内町須賀川。ここは、そば処としてすっかり定着してきた。新そばの時期にもそば祭りが開かれるが、花の祭りも盛大である。今年は第12回だという。

 正式には「法印さんとそばの花まつり」という。会場の八丁原はゆるやかな斜面にソバがたくさん栽培されていて、ちょうど花時だったので、壮観な光景である。名山の高社山がよく見渡せる景色の広がった地でもある。急造のステージでは民謡と踊り、フラダンス、紙芝居などの催しがあり、芝生に腰を下ろして見物できる。

 メインとして、本格的な手打ちそばの提供がある。須賀川といえば、ヤマゴボウ(オヤマボクチ)をツナギとする特有の技法で有名。今回は看板に、「本日のそばは 雪室で熟成した玄そば粉のおそばです。」とあった。端境期の材料を使うので、工夫しているのだ。他にもそばがきに近い「早そば」、そば焼餅の「茶の子」、最近売り出した「法印焼き」といった、独自のそば料理が楽しめる。名物の竹細工、地元農家栽培の野菜や果物の直売も人気だ。

 花はほぼ満開で、虫たちがたくさん訪れていた。ミツバチはほとんど見当たらず、小型のスズメバチが目立った。

 木の姿はよく、花がたくさん咲いている。豊作型の花、と見たが。結果は収穫するまでわからないのが、ソバ栽培の難しいところらしい。幌馬車トラクターがまわる。有料だが、家族連れに人気がある。

 紙芝居は「法印さんはそばが好き」が恒例の出し物。そば、早そば、茶の子などと並んで、この地の伝統的なそば文化に触れるいい機会であった。

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 天竜峡花の里そば祭り、9月21日。場所は景勝地の天竜峡のすぐ近く。中央道が飯田山本で分岐して、遠山谷から浜松方面へ抜ける高速道路のインターチェンジが会場である。工事が本格化するまでの間、国から借りる形でそば祭りを開催してきた。もう12回になるという。高速道路工事が本格的に始まるので、この会場は今回限りだとか。

 そう思って見ると、ソバ花の面積は以前より半分以下だった。元々が農地ではなかったのだが、がんばってソバ栽培を強行した、というところ。そのせいか、花は年により盛大だったり、時には貧弱だったりした。今年は天候に恵まれず、姿は物足りない状態だった。

 ここは「信州大そば」という品種を栽培することが特色。信州大そばは、信州大学農学部の故・氏原暉男教授が開発した独自の品種。木が少し大きく、稔った粒も大きい。4倍体なのだそうな。信濃1号などの在来種とは混じらないとされ、栽培に関しての細かい制約はない。一時的に長野県下に広まったが、栽培の難しさもあったらしく、今は一部で栽培されているだけのようだ。だいぶ以前に何度か食べたことがあるが、粉の性格が、少し粘っこいのかしら、と感じることがあった。特に十割で打つ女性が作った、信濃1号との味の比較が興味深かった。

 こうした新品種の開発と定着の難しさは、ソバ特有のものかもしれない。長い間、品種改良があまり進まなかったようにも感じている...

 飯田地域では、このそば祭りが開催されるようになってからだろう、水田転作としてソバ栽培が増えているように感じている。町なかにはそば屋が多いし、郊外にも名乗りを上げる地域を見かける。他の地区から訪れる観光客には、蕎麦が受けるはず。もう少し栽培が広がると本格的になっていくのかも。

 今回の祭りも足湯などのサービスがあり、手打ちそばの提供の他に、多くのテントが並んで売店が盛り上がっていた。アトラクションでは太鼓演奏、フラダンス、健康体操などの披露があり、見物しながらの食べものが楽しかった。

 蕎麦以外にも、地元の名物、せんべい状の「そばおやき」は、ヨモギ入りもあり、味の工夫がよかった。そば切りと同じで、米優先意識の強い伊那谷の中で、珍しい食べ方の伝統が面白かった。

 飯田地方の話題の一つ、「摘み草」料理の天ぷらが面白かった。ふだん食べたことのない、花の天ぷらなどは色どりがよかった。また地元高校生が売店で声をあげて販売する姿も頼もしかった。近隣の町村の名物や特産品がたくさん並び、お祭り特有の華やかさがいい。来年以降、場所を変えても、にぎやかに開催されるとうれしいな、と思った。

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 箕輪町の赤ソバ(高嶺ルビー)の畑にも、9月21日に訪れた。古田地区で毎年開催されている。

 赤ソバも、信州大学の氏原教授と地元の会社のタカノが開発した。ヒマラヤのネパール原産の赤い花のソバを改良して作ったという。真っ赤なソバの花が咲く広大な一帯は、観光名所としてすっかり定着している。

 赤花ソバは、信濃1号などとも交雑すると言われ、それを避けるために隔離した場所に栽培されることがある。ここ古田では、周囲を山に囲まれた別天地で、他のソバ栽培に影響しないよう配慮されている。これだけ広大な土地に独立したような耕作地があることは珍しい。

 今年の特徴は、花の姿がかなり小さいこと。普通のソバに比べて半分くらいである。こんな姿は初めて見て、びっくりした。以前との違いは、看板に説明が書いてあった。

「赤そば《高嶺ルビー2011》」

 赤い花の美しいこのそばは、ヒマラヤ(ネパール)原産のそばで、「タカノ株式会社(上伊那郡宮田村)」と「故・氏原暉男信州大学名誉教授」が共同で品種改良・育成した「高嶺ルビー」を、さらに改良した「高嶺ルビー2011です。

 高嶺ルビー2011(農林水産省品種登録第22653号)は、一般のそばより背丈が低く、やせた土地でも栽培できますが、実の収量は約3分の1程度です。

 景観作物や観賞用として特に利用されており、花の色はピンクから赤になります。鑑賞期間は霜の降りる10月中旬までです。」

 新聞やテレビで紹介され、相当に有名になったようだ。最盛期には「祭り」として、手打ちそば振る舞いがあり、人気を呼ぶ。

 箕輪町全体では、一般と同じ白い花のソバ栽培が、かなり盛んである。各地の畑や水田に、真っ白い花をたくさん見かけた。そば屋もいくつかあり、本格的な「花も実もそばも」という地域に育ちつつあるのかしら、と見たのだが...。

 なお、赤ソバは、製粉して食べることもある。箕輪町の他、近隣の中川村でも赤花の時期に祭りがあり、村内で赤ソバの粉で打った蕎麦が食べられる。1~2度食べてみたが、蕎麦自体の味というより、村人の感覚が味に影響しているような気がしたものだった。

2015年10月16日掲載

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