TOP2016年10月開田そば祭り

開田そば祭り

10月
07

 10月2日、「信州木曽開田高原そば祭り」が開催されて、参加してみた。もう第33回になるという。―思い出せば、第1回が昭和58年(1983)10月30日に開催されて、あれから33年になる。この第1回に私は参加したことがあり、当時をなつかしく思い出した...。

 そば祭りの会場は、木曽町の中心部から西へ国道361号線を走り、車で10分ほど。トンネルを抜けて、別世界に入ったような気分になる、開田高原入口に当たる場所。テニスコートなどを広く使って、新そばを食べて楽しむ。

 昼食時前後になると、駐車場は車が満杯、シャトルバスのピストン輸送で大にぎわいだった。メインの会場は、人波が絶え間なく流れていた。

 先に食券を買う。盛りそば500円、かけそば500円。今年は初めての試みとかいう「すんきそば」が650円だった。私は欲張って、盛りそばと「すんきそば」を食べることにした。

 少し長くなった行列に並び、出来上がるのを待つ。盛りそばの方が人気があるのか、行列がかなり長い。それでも進み方が速いので、腹が立つほどではない。お盆に乗ったそばを受け取って、大きなテントの椅子に腰かけて食べる。細めのツルッとしたそば。少し粉っぽさがあったが、まずまずの味だった。

 ついで「すんきそば」の方へ。こちらは「かけそば」と一緒だ。割と短い行列。「かけそば」の丼に「すんき」を乗せたもの。やはりテントの机で食べる。

「すんき」は、少し固めで、歯ごたえがある。思ったより酸っぱくなく、特有の香りと味わいがなぜか、かなり美味しい気がした。この「すんき」の味が汁に含まれていて、そばをすすると、一緒になって不思議な味わいになる。少し酸味があり、少しクセのある風味が、そばによく似合う。「盛りそば」で感じた粉っぽさが、今度は感じなかった。2杯目のそばだというのに、気持ちよくスルスルと食べられる。この「すんきそば」を食べた印象だけで言えば、「すんき」というものは、汁が似合うのだろうか、ということだった。

 今まで何度か木曽で、また別の場所でも、「すんき」を味わう機会があったが、今回が一番旨かった。この味なら、多くの人に誉めてもらえるのではなかろうかと思った。

 本部の係にちょっと聞いてみたら、実はこの「すんき」は、作ったばかりなのだという。そば祭りに合わせて、赤カブの栽培から漬け込みまで、急いで作ったもののようだった。それで歯ざわりのいい、新鮮さも感じる味わいになっていたのか...。「すんき」といえば初冬の、地元の赤カブの収穫のころに漬けるのが普通だと思っていた、少し不思議な気がした理由である。美味しいものが違う時期に食べられるのもいいものだ。

 昼食どきの時間帯は、行列が長く、食堂もほぼ満席状態だった。それでもテントが相当に大きく、楽しげに食べる笑顔が、あちこちで見られた。

     ☆

 食後、たくさん出ているお店を見て歩く。この地方の特産品が多く並び、売れ行きもいいようだった。本部のところには、各種のそば製品が並んでいた。中に「煮込みそば」という商品が売られていた、不思議なものだと、びっくりした。名物なのかしら、と買い求めた。そこで聞いてみた、みそ汁で煮込むのか、と。答えは、いや、そばつゆで煮ます、しょうゆ味です、とのこと。あれまあ、珍しい。

 というのは、中部地方の山村のいくつかの民宿等で聞いた話で、昔の農家で食べたそばは、どんなだったかとしつこくたずねて、作ってもらったことがある。それは、ふだんのみそ汁にそばを入れて煮込んだものだ、とのこと。食べてみたら、一般の「ざるそば」とは大いに違う食感があり、感心したものである。どことなく、そうだろうな、想像できるな、という食べ方であり、味だった。

 煮込みがそばつゆ=しょうゆ味でという話は、開田の奥の地域でも聞くことが出来た。隣の王滝村の女性でも確かめた。木曽ではそういうものだったのか...。―ただし、「そばつゆ」が、しょうゆからでなく、「たまり」を使うことはあったのかもしれない、と思うことがある。その「たまり」だったら、元はみそ味なのだろうか。確かめてみたい課題だ。

     ☆

 開田高原の第1回そば祭りでは、「とうじそば」の食べ放題があった。皆さんの熱気につられて、私も2杯か3杯、いただいたような気がする。

 狭い調理場でどんどんゆでて、それを窓の外の大釜へまわす。お釜では小さなトウジカゴに少しずつそばの玉を入れ、煮えているお釜に浸して湯じる(温める)。お椀に盛って、次々と提供する、というやり方だった。たいへん美味しかったのを思い出す。

 第1回ということで、慣れない手つきで懸命にサービスしてくれた村人たちの気持ちがこもっていて、すごく好意を持つことが出来た。私もすっかり開田ファンになり、木曽のそばの好印象として心に残ったのだった...。

 その後、ここのそば祭りは何度か訪れたことがある。大きな野外ステージが作られて、そこでそば食い競争なんかが開かれた。木曽馬の里としての宣伝にも力が入り、牧場などの施設が充実してきた。観光地としてしだいに有名になり、観光客が増える傾向のようである。

 今では「とうじそば」は、開田高原のいくつかのそば屋でメニューに載せている店があると聞いた。機会があれば、改めて食べてみたいものである。

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 10月上旬は、標高の高い開田では、ちょうどソバの収穫の時期。どこのソバ畑でも、葉が枯れて、茶色の実が風に揺れていた。少し前から台風や秋雨前線の影響で雨降りが多かった。どうやらソバも刈り入れが遅れているらしかった、触れればこぼれそうになった粒がたくさんついていて、とても美味しいそばに化けるだろうな、と思った。豊作型に見えたが、その後の刈り入れの状況によって、質も量も違ってくるのだろうか、と気になった。

 もっとも、最近は機械化が進んだことだろう、コンバインによる収穫がほとんどにちがいない。村の一部の畑では、刈り入れが終わったばかりの大きなタイヤ痕が残る場所も見かけた。

 ずいぶん前になるが、旧開田村では、奥地の方でソバ栽培を急速に増やしている一帯を見つけたことがある。そのあたりでは今回、土手のススキが真っ白に続く畑をよく見かけた。面積が増えているのか、減ったのか。必ずしも順調には進んでいないかもしれないソバ栽培の実態が、車を走らせているだけでも垣間見えた...。

     ☆

 急ぎ足の開田訪問だった。初めての経験も含めて、刺激的な話も聞けた。また何度か訪ねてみたい。そうして気になることをまとめて書いてみようと思う。今回はその連載の第1回ということにしよう...。

2016年10月 7日掲載

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