TOP2018年09月夏の蕎麦から新そばへ

 8月の終りころ、北信のそば処で面白い経験をした。

 ここでは鉄道の駅の立ち食いそばが名物で、割と美味しいという評判が立ち、人気を集めている。久しぶりに食べてみた。暑いので、冷たいざるそばを食べる。味は悪くはないのだが、冬場のかけそばの時に感じた、けっこう旨いなあ、という印象は消えていた。普通の機械製のインスタントに近い味わいだった、少し肩の力を落としてしまった。

 その帰りに、国道を走っていて、ふと、近くに見えたそば屋に立ち寄ってみた。普段は、割と特色がない味わいの蕎麦で、ごくたまにしか寄らないのだが。もしかして「口直し」になるかしら、と。入口に「ヒスイそば」の数量限定の宣伝があった。

 そのヒスイそばを注文してみる、まだある、というので。メニューでは、普通のざるそばが600円のところを、ヒスイそばは800円だとか。

 じきに出来てきた蕎麦は、なかなか旨い。これなら、ヒスイそばだから旨いんだ、という宣伝が生きてきそうだ。...材料のヒスイ蕎麦の粉はどこで仕入れているのだろう。ごくたまに、町場のそば屋でもヒスイそばと名乗る店を見かけるが、あまり食べる気がしない。たいがいは、パッとしない味がほとんどだからである。今回の体験は、珍しいものだった。

 じっさい、各地のそば屋で、ヒスイそばで打っています、という味が、けっこう期待外れの場合が多くて、地元のそば好きの間に広まっていないのだろうなあ、と思う機会が多かった。...たぶん、そもそも、普通のソバ粉で打って美味しい蕎麦を出せるなら、ヒスイそばではもっと旨い味を出せるはず、と思う。ヒスイそばが大した味でなければ、普通のソバ粉で打つ蕎麦があまり期待できないのでは、と思うこともある。

 今度の経験でわかったことは、ヒスイソバの生産が増えて、今年あたりからは、かなり広い範囲でヒスイ蕎麦が食べられるようになったらしい、ということ。それだけに、美味しい蕎麦でないと、何を使っても評判はよくならない、ということになってしまう...。

 これは、全国各地のソバについても言えることだろう。北海道や関東地方などでは、品種の宣伝が激しい。○○を使っているから美味しいんだ、と宣伝するそば屋は、東京などには多い。

 信州のヒスイ蕎麦は東京でも食べられるのだろうか。栽培に特色が出る「タチアカネ」なんかは、粉の状態で他と区別出来るのかどうか、私の体験ではまだはっきりしない。

 いずれにしろ、優秀な味わいのはずの品種が、今後どれだけ一般に広まっていけるのか、注目していこうと思う。

 ヒスイそばに限らないが、今年は、早くから「夏の蕎麦」に味を落としていったそば屋がけっこう目立った。一方では、夏場がかなり暑くなっても、ほとんど品質を落とさない美味しいそば屋にも多く出会った。自家製粉なら、農家から直接仕入れて上等な味を勝負することは出来る。小さな店などは、粉屋にお任せしているらしい話も聞くことがある。品質保持の意外な手法がうまくいく例も、割と多いらしい、とはこの夏の蕎麦の味ではっきりわかる場合もあった。日ごろから、粉屋の品質を信用して上手につきあってきた店が、多くなったのかもしれない...。

 そろそろ、北海道の「新そば」が出まわる時期になった。味、品質のことはまだわからないが、今夏の酷暑、あるいは大雨・洪水等の荒れた天候も影響が出るかもしれない。もう少し後になると、報道もなされるだろう...。心配と楽しみが交錯する、新そばの季節になっていく...。

2018年9月 5日掲載

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