TOP2018年10月2つのそば祭り

 9月23日~24日長野市で、「NAGANO EXPO」というイベントがあり、「第2回長野そば祭り」が開かれた。長野市や北信でこういうイベントが開かれるのは珍しい。松本ではずいぶん前から「松本そば祭り」が毎年開催されてきたし、いつも大にぎわいの盛況である。長野市近辺では、以前、上山田町(今の千曲市)で数年間開かれて、首都圏からも出店があり、近隣のそば屋も店を出して、けっこうレベルが高かったような記憶がある。その後継の企画が、2~3年前から千曲市戸倉で開かれている(千曲川マルシェ)。

 昨年の第1回長野そば祭りは、9月17~18日にビッグハットで開催された。ギネスに挑戦、などの目新しい企画もあった。そば店のブースは10店だったか、県内と県外が半分ずつだった。かなりの人気を集めて、順番を待つ行列が長かった記憶がある。

 今回も、長野青年会議所の主催。長野市にもこんな催しがある、と信州そばをアピールするいい機会かしら、と思ってのぞいてみた。場所は県民文化会館(ホクト文化ホール)・若里公園。ホールでは何人かの著名人の講演会が催され、公園では蕎麦のブース、おやきの店、日本酒の利き酒・飲み放題が人気を集めていた。そして木工教室やボルダリングなど多彩なイベントが同時進行で開かれていた。こちらは子供向けの企画が多く、客層は子供連れの家族が多かった。

 そば祭りに参加した店(ブース)は10店。福島県3店、栃木県2店、茨城県、新潟県、福井県、三重県、長野県がそれぞれ1店ずつ。地元が1店で、他は県外から、という例は珍しい。県外から見えた店は半分以上が、地元で店を構えているのでなく、同好会のようなグループが、こういう機会に出店するもののようだった。

 いくつかを食べた感想も含めて紹介すると...。

 各地の特色あるそばがあった。たとえば福島県の「高遠そば」。江戸時代に信州の高遠から会津へ移動した殿様が、信州のそば職人を連れていって定着した、との言い伝えがあるという。そばと一緒に伝来された辛い大根オロシを使ったといい、今はつけ汁にオロシが入っているのが特徴とされる。私はその先祖帰りという蕎麦を伊那市高遠で食べたことがあるが、今の福島県の「高遠そば」は、味もスタイルもずいぶん洗練されたんだなあ、という印象だった。

 大根オロシで言えば、福井県から来た店は、「オロシそば」が名物。「冷やかけ」のスタイルで、オロシがたっぷりかけてある。何度かよそで食べたことがあるが、今回はなかなか美味しかった。オロシの効果が生きていて、江戸時代にもこうした旨いオロシの使い方があったのだろうか、と想像したりした。たぶん、本場の福井県へ行くと、こうした旨いオロシそばにありつけるのだろう、と、いい宣伝になっていた。これとは別に、薬味につけたオロシがなかなかのいい味だった店もあった。初秋を迎えて、そろそろ大根が美味しくなってきたのかしら、と感じいった。

 麺の作りは、大きくはほぼ東京流に近いもの、と見えた。細めのシャキッとした口ざわり。時には材料のソバ粉の味が直接出てくることもある...。中にはそば打ちの実演をしているブースもあった。見ていると、東京流が多いなあ、と感じる。打つ技術は、本来各地で相当に違うはずなのだが、近年はかなり似かよったものを見かける。グループや団体の研究会などが普及したせいだろうか。本来の地元の蕎麦の良さは、やはり現地へ行かないとわからないのかもしれない。

 麺自体の味は、イマイチの店が多かった。こうしたイベントでは、調理場の環境がよくないので、仕上げ方がむずかしいのだろう。それでも平均して、口ざわりのよい蕎麦が多かった。

 県外の店の味がほとんど、その現地へ行ってみたい、という味に仕上がっていなかったような気がしたのが残念だった。

 つけ加えれば、蕎麦につづいて「おやき」の店が多く並んだ。こちらは地元の店ばかり。日ごろから市民が親しんでいる店に人気が集まっているようだった。

 2日間とも天候に恵まれ、それなりに活気のある催しだったと言えるのではないか。そば店だけで言えば、昨年の第1回の時より、客は少なかったかもしれない、と見えたが。イベントや蕎麦の味の向上があれば、全国的に有名なイベントに成長するのかもしれない...。

     ◇

 10月6日~8日の3日間開かれた「第15回松本そば祭り」。いつものように松本城公園が主な会場で、そばを食べられるブースが19店、他に関係する食品など大小の出店が多くあった。別会場ではそば打ち大会なども開催された。松本の秋の一大イベントとしてすっかり定着している。来訪者も、報道によれば10数万人と安定しているようだ。

 見て歩くと、もう何度も来ている、慣れたグループ・店舗が多いようだった。それぞれ、かなり長い行列が出来ているのだが、後ろに並ぶと、意外に早く順番がまわってきて、あまり待つこともなかった。がんばって5カ所を食べたのだが、時間をかけると、それほど無理して食べたという印象でもなかった。

 食べた中での印象は...、やはり大根オロシの薬味が効いている蕎麦が目立った。こうした機会に食べる味の決め手の1つかもしれない。これと似たようなものか、蕎麦ではなくツユで味を引き立てている店も目立った。最近の手打ちそばの傾向かもしれないが。あるブースでは、多彩な薬味が、蕎麦全体を上手にまとめていて感心した。これで現地へ行くと、もっと美味しい蕎麦にありつけるのかしら、と期待を抱いたものだった。

 地域別では、長野県内からは8店。松本そば祭りの名にふさわしい、と言えるか。北海道から2店。気になっていた、今秋の北海道のソバの出来はどうか聞いてみたら、場所により出来・不出来があるようだ、とのこと。今夏の大雨や台風、大地震の影響が相当にあるらしかった。今後の発表や報道でだんだんわかってくるのだろうが...。福島県から2店、これは長野そば祭りと同じメンバーらしかった。関東からは茨城県、栃木県。中部からは愛知県、岐阜県。北陸からは富山県、福井県。関西からは兵庫県が出てきていた。松本そば祭りは「全国そば祭り」とも名乗っていて、それにふさわしい出店数だったと言えようか。

 「慣れ」というものは大したもので、最初のころは、現場でいいツユを作るのはむずかしい、などと条件の悪さを気にする人が多かった。松本市内のそば屋では、だから出店しない、という声も聞かれた。それが15回も重ねると、皆さんずいぶん慣れてきたようで、そこそこのツユを作り、茹でて出すタイミングが早く、スムースになってきた。器や薬味の扱い、客との応対も上手になってきて。もしかしたら、全国で行なわれる「そば祭り」のブースの作り方、運営方法などは松本から学んだ要素も大きいのでは、と推理したくなるほどだ...。

 それでもまだ、セルフサービスの、食べ終えて空いた食器類を自分で仕分けしながら捨てていくのは、後味がよくない。最近は手のあいた店員が、客から器を受け取って、分類しながら捨てる場合も見かけるようになった。いくらかは進歩しているのだろう。一方で、出身地の観光宣伝なんかをほとんどしないブースも相変わらず多い。せっかくだから、郷土自慢をもっとたくさんやってくれた方が、客が行列で待つ間(ま)をもたせるものではないだろうか。

 さらに言えば、郷土を代表する蕎麦を持って乗り込んできた、という気概があまり感じられないブースを時々見かけた。別の角度から言えば、そちらの蕎麦はその程度の味ですか、と魅力を感じない結果にもなる...。

 もう10年以上前になるか、東信のあるそば祭りに、関東からやってきたそば屋は、張り切って、純粋の「更科そば」を打って出していた。初めて食べて、更科とはこんなに美味しいものか、と感心したのだった。おそらく、本場の信州にやってきて、負けないようにと腕自慢を発揮したのだろう。2年続けて出店したのだが、たぶん、その良さが信州人に理解されなくて、残念な思いをしたにちがいない。以後、ぴたっと来なくなった。2~3年後に、その本店へ出かけて「更科そば」を食べてみた。意外にも、信州のそば祭りで食べた味よりも少し物足りなかった。よほど、信州では材料も含めて気張った作り、味に仕上げていたのか、とまたまた感心したものだったが。

 全国の味と比較する場合、受け入れる市民の味わい方も、評価に影響するのだろう。つまり、そば祭りなどでは、市民の舌のレベルが、結果的にかなり重要な役割を占めるのではないか、と思った。

 表面的な、客がどれくらい集まったか、その店を訪れたか、という数字だけでなく、全体の蕎麦の味のレベルが、そば祭りの消長を決めるのかもしれない、とも思う。割と近い期間に経験した、2つの大きなそば祭りの、表面的かもしれない感想である。

2018年10月17日掲載

前の記事  サイトトップに戻る  次の記事

著者プロフィール