TOP2018年11月地元の店のそば祭り

 長野県内の集団の「そば祭り」が、各地で開かれている。先日紹介した「長野そば祭り」や「松本そば祭り」は、いわば、地域外のそば屋、そば愛好家のグループの出店が多かった。どことなく、"祭り"を楽しむのが主で、蕎麦の味を食べ比べる、評価する雰囲気は少ない。

 そこへ行くと、秋も盛りの10月20日〜21日の「千曲川マルシェ」のそば祭り、また11月3〜4日の「安曇野収穫祭」のそば祭りは、地元のそば屋の出店が多く、食べごたえがあったのが印象的だった。

 「千曲川マルシェ」は、もともと千曲川流域の市町村が協力して開く市(マルシェ)で、多くの物産店が並ぶ。もう数年の回数を重ねるが、目玉は10店舗も並ぶそば店のブースだ。そこでは、主催者側の努力もあるのだろう、地元の千曲市や千曲川流域のそば屋の出店が目立った。客層は地元の市民が多いように見受けたが、以前から知られている店、評判のいい店に客が多かったように見えた。そして確かに、全部は味わえなかったが、味のレベルはそれほど落ちていないように感じた。

 こういう場所に出店して、条件のよくない環境で調理し、提供する、もしかしたら赤字になりそうな場でもある。地元のため、時には店の宣伝も兼ねてがんばって出店していることと思う。そうした雰囲気が感じられて、つい応援したくなったりする。

 千曲川流域の特色ある蕎麦文化がもっと表面に出てくると面白いのだが、店の側も客の方も、あまり関心がないようなのが残念だった。上流から下流まで、いくつかの特色ある「蕎麦食」があると思うのだが、歴史や風土の違い、文化の差異も含めた特色ある一帯として売り出せれば面白いのに...。

 いくつか食べてみて、商売熱心と味は別物かしら、と思った。「更科の里」と呼ばれるような洗練された味は、残念ながら少なかった。

 そばのブース以外に、各地の「名人」のコーナー、高校生の練習のコーナーもあって、見ていると、それなりに面白い。それでも、他のそば祭りの後追いでは、ここの特色が薄れる。遠くまで目立つ企画、地元の味自慢も増やして欲しいもの、と思った。

 また、県外からやってきたそば道具の専門店の話が面白かった。「とうじそば」用の竹で作ったトウジカゴを売っていたので聞くと、そちらの伝統品でなく、長野県のものを真似して作ったのだとか。蕎麦そのもの、関係する道具類も、県境を越えて、全国的な類似、拡散がかなりあるような気がしたものだった。

 千曲川流域の物産展も多数の出品があり、盛んだったようだ。冷やかしで見て歩いても、けっこう面白い。地元の特産物、農産物、また加工品など、気になる商品が多いように感じた。せっかくのマルシェなので、ここからさらに各地の名物が広がっていく契機になればいいな、と思った。

     ☆

 もう一つの、穂高神社で開かれた「安曇野収穫祭」は、もう6回目だという。様々な物産が並ぶ一角もにぎやかだったが、やはりメインはそば祭りの方らしく、訪れる客が多かった。出店は7店だったが、地元の店ばかり。こうしたそば祭りに地元の店・グループがそろうのは、本当は珍しいことだ。条件のよくない調理場で、1枚(杯)500円か600円の客を大急ぎでさばいていくのは、見ていても「ごくろうさん」と思ってしまう。そこで味のレベルを落とさずに提供していくのは、かなりの努力を必要とするだろう...。

 それでも今回は、以前と比べて、調理して出すスピードがかなりよくなったと思った。どこのブースも行列が出来て、時にはかなり長い行列も見かけたが、後ろについてみると、思ったより早く自分の番が来て、助かった。

 食べる環境が必ずしも良くなってはいないが、気持ちよく食べてもらおうという店側の努力があちこちにあって、ホッとしたり、うれしかったり。

 蕎麦の味という点では、たまたまなのか、いくつか食べた店がいずれも、細打ちなのに感心した。もともと安曇野は、古くからの「そば処」ではない。観光地として有名になってきてから、観光客向けにそば屋が増えてきた地域だ。以前からあったそば屋は、打ち方などいろいろあったような気がするが、だんだん東京流の打ち方になびいてきたのかしらん...。そのせいなのかどうか、味は平均してよかった。----今までのここのそば祭りの中ではいい方だった。皆さん、切磋琢磨して技術の向上につとめているのかしらん。そうだとすれば、これも珍しい例だろう...。

 ワサビの本場だけあって、片隅で太いワサビをどんどん擂り下ろすのを専門にやる係がいて、次々と各ブースに提供している。食べ方はいろいろあるのだろうが、麺の上にワサビをなすりつけて、風味を強く感じながら食べるのが推奨されていた。このやり方は、客の方にもかなり広がっているように見えた。ワサビの強い風味に負けない蕎麦がどうだったかは、食べてみて自信がなかったが...。

 蕎麦の味、ワサビの味も、最初のころと比べて、食べる客ときちんと向き合うようになってきたか、と感じた。こうした集団の努力がみのっていけば、安曇野が立派な「そば処」に成長していくのだろうな、とうれしい感想を持った。

 全国的には、「安曇野産」のソバ粉が割と多く出まわっているようだ。栽培について安曇野市などでは、どちらかというと、水田転作の穀物としてソバが利用されてきた経過がある。転作だからという理由で、水はけ、機械化などがあまり問われないできたような記憶がある。しかし、そば処として成長していくためには、農家などとも協力して、質のいい玄ソバがたくさん収穫できるのが望ましい。そうした風潮が、そば屋と関係者、また市民の間に広がればいいな、と思った。

 若い「そば処」が各地で名乗りを上げているが、単に人が集まればいい、というものでもないだろう。何よりも、美味しい蕎麦を提供して欲しいし、地域の打ち方、独自のメニュー、などにも工夫をこらして欲しい、と願った。今後の健闘を祈ります。

2018年11月 9日掲載

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