TOP2018年11月きのこそばの魅力

 今年は信州は山のキノコが豊作だとか。マツタケから始まり、アカンボウ(サクラシメジ)、ジコボウ(アミタケ、イグチ類)、クリタケ、モトアシなどなど、多彩だった。種類も量もたっぷり生えて、多くの山好きが楽しんだようだ。

 そろそろ新そばが出てくるか、というタイミングで、「キノコそば」が大変魅力的だった。山村のそば祭りではもちろん、山のキノコがたっぷり入った1椀。蕎麦でなくとも「キノコ汁」がいい。

 町場だと、少し条件が違う。地元の客が多いそば屋でも、山のキノコをたっぷり使うとは限らない。店主みずからが山へとりに出かけていく店では、適度な割合のキノコそばを提供してくれるのだが...。

 長野市内の住宅街にあるそば屋で、「本日のサービス、きのこそば」と貼り紙があったので注文してみた、大盛りで。すると運ばれてきた大丼には、いかにも山のキノコらしい、大きめの切れ端がたくさん入っている。たいがいの店は表面に乗せるだけ、つまりトッピングだけのキノコが多い。ところがこの店は、蕎麦をすくい上げた時に、下の方からも一緒にキノコが上がってくる。実にたくさん使っていることがわかる。そのキノコは、種類がわからないが(何種類も混じっていた)、しっかりした歯ごたえで、山に生えていたままの貫禄も感じられる。そして何より、キノコ汁が旨い。たくまざる天然のダシが効いているのだ。夢中になってすすり、完食した。

 ...後で考えて、この店は、夕方から夜にかけて、近所のお父さんたちが、一杯傾けるのにいい場なのだろう。そんな常連の誰かが、山のキノコをたくさんとってきて、通っている店に持ち込むのではあるまいか...。つい、そんな想像をしてしまった。

 同じ町なかであっても、サラリーマンが仕事帰りに寄る店では、山のキノコを持ち込む客は少ないのかもしれない、と勘ぐったのだが...。

 私も子供の時の思い出で、山の畑の手伝いの帰りに30分ほど早く上がり、ちょっと寄り道をしてキノコをとり、それを夕飯の煮込みうどんに使うことがあった。かなり旨いもので、いつもの倍も食べて、腹一杯になったことをなつかしく思い出したのだった。

 11月も中旬になると、信州各地のそば祭りもだんだん少なくなる。もう新そば祭りは終わったかしら、という時期に、中信の山地のそば処をたずねた。毎年訪れていて、いつも美味しい蕎麦が味わえる店だ。祭りはまだ延長してやっていた。定番の「ざるそば」700円の他に、「山菜そば」900円も注文した。「山菜そば」の注意書きに、「地物のきのこ 桜しめじ、もとあし、なめこ、など」とある。さすが、山に囲まれた地らしく、山の幸が味わえるはず...。

 ざるそばはやはり、今年も旨かった。これで700円とはもったいないくらいの気がした。田舎の新そばの真髄と言えそうだ。いつもの年だと、こんなうまい蕎麦を独り占めしてはいけない、と、もう1枚食べたい気持ちを押さえて、後ろ髪を引かれるように去るのだったが。

 今年は「山菜そば」すなわち「きのこそば」を追加して食べた。温かい蕎麦で、丼に盛ってある。表面は黒っぽいキノコに覆われていて。こんな蕎麦は、その気になって、いろんな要素をじっくり味わいたくなる。

 表面のキノコは、種類がよくわからない。3種類くらいまじると、煮込んだものは、よほど慣れた人でないと、見分ける、味わいわけるのはむずかしい。「桜しめじ」は、本来少し苦みがあって、子供向きではないのだが、こうやって麺類に煮込むと、別の味わいが生じるのかもしれなかった。「もとあし」は、晩秋のキノコ、と聞いている。うどんなどに煮込むとすごくいい味が出るとか。こんなキノコが複数入っていたらしいのだが、ただ「旨い!」と思っただけで通り過ぎた。

 この、いわば「きのこそば」の旨さは、それだけでなかった。キノコのダシがよく効いたツユはもちろん旨い。そしてすする蕎麦の味が、なんとも優しいのに感心した。口ざわり、歯ざわりが優しい。喉を通って胃の方へ流れていく感じが、体が清められるような錯覚さえ覚えたほどだ。いくらか細めの麺は、いわゆる「喉ごしがよい」という表現とは違う、なめらかさがあった。打ち方は、ざるそばの方では、東京流ではないと思った、かといって田舎流のゴツゴツした感じでもない。この地方の独自に進化した製法なのかもしれなかった。そんな麺の、「かけそば」の方の優しさだった。これぞ「信州そば」の本随か、と、ぼんやり「至福の味」の余韻を楽しんだ...。

 勘定の時に、おそるおそる内儀さんに聞いてみた、今年のソバの出来はどうですか、と。答えにくかったようだが、うちはまあまあでしたが、よくない家もあったようです、とのこと。どこの産地も(北海道でさえ)、出来が悪いとはなかなか言わない。たいがい、自分のうちはよかったんですが、他は悪いところもあるようです、となる。遠慮というか、気遣いというか、本音はなかなか聞き出せないものだ...。

 別の知り合いの民宿に聞いたら、やはり出来はよくない、と言う。量は少なかったが、味はいい、とも教えてくれた。確かに、この店の蕎麦も、いつものように美味しかった。こういうことだから、営業時間は早めに切り上げて、食い延ばしをはかっている、とか...。

 こうした、いかにも「産地」の、収穫、製粉、食べるところまで自家でコントロール出来る店の言い分には耳を傾けるべき話がたくさんあるものだ、と改めて思った。

 これからでも―相当に晩秋、あるいは初冬まで、山のキノコは出るものがある。もう少し、「きのこそば」の深い味わいが楽しめそうだ...。

2018年11月16日掲載

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