3年ぶり4回目の退会 「アフロの俺が俺で俺だ」(66)
ジムをやめることした。これで3年ぶり4回目の退会だ。もう常連と言っても良いだろう。なんせジムは精神に悪い。
「いや!運動は精神を安定させるはず!」
そんな声が聞こえてくるが、俺にとっては良くないのだ。例えば、打ち合わせ終わりにジムに行こうと考えていたのに、相手の話が長引いて、今日はどうやら間に合わなそうだな、となったとする。その時、俺は
「ちぇ!せっかくジム着持ってきたのに」
という雰囲気を出す。雰囲気だけは。内心は
「やったぁ!真っ当な理由でジムを休めるぞ!」
そんな気持ちで太鼓を叩(たた)き、ドンドコお祭り気分。だが嬉々(きき)としてバチを掴(つか)む俺を、木の影から見つめる陰湿な自分が
「急げば間に合うのに…30分だけでもやれば良いのに…」
と仄(ほの)暗い瞳でジッと見ている。こうなると葛藤が始まる。いくか?いくまいか?大いに悩む。この葛藤が非常にメンタルに悪いのだ。そして更(さら)に、ここでジムに行かない判断をしたとする。するともう一日、いや翌日くらいまで気分が悪い。罪悪感でクラクラしてしまうのだ。じゃあ行けばいいだろ?と無慈悲なことを言う人は、落語を嗜(たしな)み、人間の弱さってやつを受け入れてから出直して欲(ほ)しい。
こんなことが結構な頻度であり、しかも月賦は毎月引き落とされる。次第にふとした日常にさえ影を落とすのだ。大好きなお寿司(すし)を食べてる最中に、ジム行かなきゃなのになぁ、という気持ちになる。百歩譲って俺は良いが、それはお寿司に対し失礼極まりない。
これらを理由に、退会届を書きにジムへ向かった。担当してくれたのは綺麗(きれい)な女性トレーナー。ジムで働いているだけあって、健康美という言葉が似合う人。そんな人にジム人生の最期を看取ってもらえるのは幸運だ、なんて当然思わない。恥ずかしい、すんごく恥ずかしい。しかし、そんな俺に軽蔑の目を向けることもなく、彼女は笑顔で対応してくれる。
眩(まぶ)しい、その眩しさがつらい。住所、生年月日など基本情報を記入した後、一番下に退会理由を選ぶ項目があった。本来ここは『意欲がなくなった』に丸をつけねばならないのだろう。なんてカッコ悪いんだ。カッコ悪過ぎる。これがジムを辞める人間に与えられる罰なのか。
しかし嘆いても道は開かない。俺はジムで向き合う最後の葛藤を乗り越え、ボールペンに円を描かせた。そして、二度と開けることがない自動ドアを抜け、外へ出る。『引越し』に力強くマルがついた退会届を残して。







