迎えた「大転職」 歯ブラシよ見事な最期 アフロの俺が俺で俺だ(73)

3月下旬、高知にて

 春です。新生活が始まる季節。新しい学校、新しい職場。望んだところへ辿り着けた人、または不本意な異動にモヤモヤしている人、様々いると思う。人生は浮き沈み、栄枯盛衰、諸行は無常である。俺はというと一昨年にバンドを休止させた日を最後に、大きな環境の変化はない。異動も転職もなく、コツコツと曲をつくり、その成果をライブで発表する、そんな毎日。しかし先日、これはまさに大転職かも、という事態を目の当たりにした。

 朝の洗面台にて、歯ブラシに歯磨き粉をつける。口の中にそれを突っ込んで、シャカシャカと動かす。全ての歯を磨いた後、ぺっと吐き出してうがいをする。タオルで口を拭った、その時に思う。歯ブラシ、そろそろ替え時かも。見るとかなりブラシ部分が広がってきている。

「よし!買い換えよう!」

そう思ったのと同時に.その歯ブラシで洗面台の排水口を磨く。そのまま浴室へ移動して、排水口の蓋を開けゴシゴシと磨く。その時だった。

「ひっ、ひどい!ひどすぎる!」

という声が聞こえた。声の主は、歯ブラシだ。

 「ついさっきまで、わたしはあなたの最もセンシティブな部分を担当しておりました!それが突然、生活の最も野蛮な部分に!これも立派な仕事だとは理解しております!しかし、急激過ぎる職場環境の変化に心がついていきませんっ!」

歯ブラシは泣いていた。

彼の言うことも確かに一理ある。俺自身も家の中にあるものの中で最もキレイな、キレイであって欲しいモノとして認識していた。それが今では…。さっきまで口の中に入っていたなんて信じられない様相。爽やかな1日の始まりを共にしたパートナーの熾烈な最期だ。

 しかし、力尽きるまでボロボロになるまで向き合っている姿。その姿に

「立派だ、お前は立派だぞ!」

そう呟きながら、トイレへと向かい、トイレ用のブラシでは届かない狭い隙間へと差し込んだ。ここが果てだ。

掃除を終え、舌で歯を撫でた。口の中は爽やかなミントの香り。彼がした最後から二番目の仕事。そして最後の仕事の成果であるピカピカの排水口やトイレを見つめる。手元には全ての力を出し切った歯ブラシ。

その顔は幾千もの修羅場を越えた戦士の顔をしていた。数分前の弱音が嘘のよう。悟りと達観の境地。物言わぬ、しかし、世の全てを見てきた仙人そのものであった。

 その生き様に敬意を捧げつつ、ビニール袋に入れてゴミ箱へ捨てた。見事、あっぱれである。

 

 

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